C14トリマー/獣医師視点
時短が介護の質を上げるという話
介護に入った年の春、老犬のお風呂に40分かけた日があります。手順をていねいにたどり、洗い残しもなく、仕上がりは前の月より明らかに良くなりました。それなのに、乾かし終わったその子は寝床で2時間動かず、翌朝の散歩を玄関で断りました。次の週、同じところを12分に詰めたら、終わってすぐ自分で水を飲みに行きました。介護の時短は、手を抜くことと同じ意味で語られがちです。現場で起きていたのは、その子が立っていられる持ち時間の内側に、手順が収まったかどうかの差でした。
終わったあとの15分を見ていなかった|犬の介護で最初に見落とす変化
トリミングの現場で、仕上がりと同じくらい見られているのは、終わったあとの15分です。台から降りたあと、自分で水を飲みに行くか。床に伏せたまま動かないか。呼ばれて顔を上げるまでに何秒かかるか。若い子ではこの15分にほとんど差が出ないので、飼い主への説明でも話題になりません。犬の介護に入ると、ここがいちばん先に動きます。
きっかけになったのは、記録のつけ方を変えた日でした。それまでは「洗った」「乾かした」としか書いていなかったところに、終了時刻と、そのあと最初に自分から動いた時刻を並べて書いてみました。2週間ぶんを並べると、かかった時間と、動き出すまでの時間が、きれいに比例していました。
| 見たところ | 40分かけた日 | 12分で終えた日 |
|---|---|---|
| 途中で座り込んだ回数 | 3回 | 0回 |
| 終わって自分から動くまで | 2時間 | 4分 |
| その日の夜の食欲 | 半分残した | いつもどおり |
| 翌朝の散歩 | 玄関で止まった | いつもの道を1周 |
| 仕上がりの毛の状態 | 指が最後まで通る | 後ろ脚の内側だけ残った |
最後の行だけを見れば、40分かけた日のほうが良い仕事です。ところが上の4行は、すべて12分の日のほうが良く出ました。犬の介護での変化は、仕上がりの側ではなく、そのあとの体の側に出ます。写真に残るのは仕上がりのほうなので、記録を取らないかぎり、この4行は誰の手元にも残りません。介護が長くなるほど、残らない側の変化が積もっていきます。
この記録をつけはじめて分かったのは、その子が自分の力で立っていられる時間が、思っていたよりずっと短いということでした。8分を過ぎたあたりで後ろ脚が小刻みに震えはじめ、10分で腰が落ちます。そこから先の30分は、きれいにする時間ではなく、その子が耐えている時間でした。
丁寧さを時間の長さで測ってしまう|介護の時短に手が伸びない背景
短く終わらせることに罪悪感が出るのは、丁寧さを時間の長さで測る物差しが、体にしみついているからです。若いころは、それで合っていました。30分かけた日はきれいになり、10分で切り上げた日は洗い残しが出る。時間と仕上がりが素直につながっていた期間が何年も続いたあとで、その物差しだけが手元に残ります。老犬のお風呂に時間をかけてしまう背景には、たいてい、この積み重ねがあります。
現場でトリミングを任せている方から聞く言葉も、ほとんど同じです。「短時間で済ませるのは、かわいそうな気がして」。この言葉が出たときに最初にお伝えするのは、手順の話ではなく、その子が立っていられるのが何分かという数字のほうです。8分と聞いた時点で、40分の意味が変わります。飼い主への説明は、ここを飛ばすとどれだけ手順を説明しても伝わりません。
実際に時間を測ってみると、長くなっている場所は手つきの丁寧さではありませんでした。介護の時短が進まない理由は、次の3つにほぼ収まります。
- 手順が毎回違う:どこから始めるか決めていないと、同じ場所を2度触ります。2度目は仕上げではなく、やったか分からなくなった確認です
- 途中で道具を取りに行く:1往復30秒として、4回で2分。しかもその2分、その子は立ったまま待っています
- 終わりの形を決めていない:どこまでやれば終わりか決めていないと、気になる場所が次々に出てきて、止めどころが消えます
3つとも、手を抜けば減るものではありません。決めておけば減るものです。介護の時短で削るのは工程の数ではなく、迷っている時間と、待たせている時間のほうでした。ここを削ると、同じ工程数のまま、かかる時間だけが半分になります。
紙に、始めた時刻・途中で手を止めた回数・終わった時刻の3つだけ書きます。手を止めた回数というのは、道具を取りに行った、やり方を思い出した、迷って眺めた、の合計です。1回測るだけで、40分のうち何分が実際に体に触れていた時間だったかが見えます。多くの家で、触れていた時間は全体の半分を切ります。介護の時短は、この残り半分から取ります。
持ち時間の内側に手順を収める|介護の時短が質を上げる理由
持ち時間が8分なら、8分で終わる手順を組みます。足りないぶんを気持ちで補おうとすると、超えた時間はそのまま負担になって、翌日の動きに出ます。組み直すときの順番は決まっていて、まず乾かす時間から考えます。乾かす時間は短くしようがなく、濡らした面積でほぼ決まるからです。
つまり、短時間で済ませるために触る場所は、洗い方の側ではなく、濡らす面積の側でした。全身を濡らせば乾かすのに15分かかり、後ろ脚と腰まわりだけなら4分で済みます。老犬のお風呂を短時間で済ませるというのは、雑に流すことではなく、その日にいちばん汚れている場所だけを濡らして、残りは濡らさない手で整えるということです。週に1度の全身を月に1度へ減らし、あいだの日は部位ごとに分ける。これで1回あたりが8分の内側に入ります。
| 比べるところ | 全身を1回で | 部位ごとに分ける |
|---|---|---|
| 1回にかかる時間 | 35〜45分 | 8〜12分 |
| 立っている時間 | 持ち時間を超える | 持ち時間の内側 |
| 濡らす面積 | 全身 | その日の1〜2か所 |
| 終わったあとの15分 | 動かない | 自分から動く |
| 1か月で手が入る回数 | 4回 | 12〜16回 |
最終行が、時短が質を上げると言える理由です。1回を短くすると、1か月に手が入る回数のほうが増えます。同じ場所に月4回しか手が入らない状態と、月12回入る状態では、地肌の湿りもにおいの残り方も変わります。1回の完成度で比べると全身の日が勝ちますが、1か月で比べると逆になります。介護は月単位で続くので、比べる単位のほうを月に合わせます。
濡らさない手で整える側に、mofuwa スキンケアミストを使っています。高機能性電解酸化水100%で、舐めても問題のない基準でつくられています。介護に入った子は、届く場所を繰り返し舐めます。口のまわり、前脚、内ももの付け根。使える場所が限られる品だと、そのたびに手が止まり、止まるたびに時間が伸びます。場所を選ばずに済むぶん、迷う時間がそのまま消えます。
スキンケアミストは吹きかけてそのまま乾かすところまでで終わり、拭き取る工程が要りません。無香料なので、部屋を閉め切りがちな時期でも、においが家の中に積み上がりません。工程が1つ減ることの意味は、8分しかない持ち時間の中ではかなり大きく、1か所あたり30秒の差が、触れる部位の数の差になって出ます。この30秒は、手を速く動かしても作れません。
12分で終えた日でも、自分から動くまでに1時間以上かかる日が3日続く/立っていられる時間が、先月は8分だったのに今月は3分になった/終わったあとに同じ後ろ脚だけを気にして舐めている/短くしたのに、途中で座り込む回数が増えている。こうした形は、手順の長さでは説明がつきません。始めた時刻・手を止めた回数・終わった時刻を書いた紙と、立っていられた分数の1か月ぶんを持って、動物病院で診てもらってください。分数の減り方は、口で伝えるより紙のほうが早く伝わります。家でやることは、そのあいだも同じ形で測り続けるところまでです。
12分の日が20回積もったとき|介護の経験は、続いた回数のほうに残る
介護の経験として手元に残るのは、いちばん時間をかけた日ではありませんでした。12分で終えた日が20回積もったころ、手順を思い出す時間がなくなり、道具を取りに行く回数も0になっていました。同じ12分でも、中身は最初の日と違います。迷う時間が消えたぶん、その子の体に触れている時間だけが残ります。
続けるうちに変わったことが、もう1つあります。時間を測るようになってから、その子の調子の落ち方に早く気づくようになりました。分数は毎日1つの数字で出るので、先月との比較がそのままできます。記録の中でいちばん役に立ったのは、仕上がりの写真ではなく、立っていられた分数の列でした。
時短という言葉は、こちらの都合の話に聞こえます。実際に短くして得をしていたのは、立っている側でした。今日できるのは、次の1回に始めと終わりの時刻を書き足すことだけです。その2つの数字があれば、来月には比べられる列になります。
Product
mofuwa スキンケアミスト
200ml / 3,300円(税込)
アルコール・添加物・香料・界面活性剤・鉱物油・オイル・着色料・防腐剤の8つがフリー。気になる部分に直接なじませて、肌のコンディションを整えます。
商品ページを見る本記事は日常のお手入れに関する情報提供を目的としており、疾病の診断・治療・予防を目的とするものではありません。皮膚や体調に異常が見られる場合は、自己判断せず動物病院にご相談ください。
