C12Q&A・豆知識
スリッカーブラシとは?力を入れてはいけない道具
手に持って、面をこちらへ向けてみてください。細い金属のピンが何百本も、根元から同じ向きにわずかに曲がって並んでいます。スリッカーブラシとは、この曲がった細いピンが面に並んでいるブラシのことです。そして、この曲がりが道具の性格をほとんど決めています。曲がったピンは毛に引っかかるように作られていて、引っかけるための形は、そのまま皮膚に立ちやすい形でもあります。だから、この道具で最初に決まるのは力の強さより、持ち方と、力がどこへ向かうかのほうです。この記事では、スリッカーブラシとは何かを形の側から見て、その力の向きがどこで決まっているのかを書きます。毎日のケアで手に持つ道具の中で、ここまで持ち方だけで結果が変わるものは、そう多くありません。
曲がったピンが面に並んでいる|スリッカーブラシとは何かを、形から見る
定義から置きます。スリッカーブラシとは、細く曲がった金属のピンが、面に並んでいるブラシのことです。面はたいてい長方形か、角の丸い四角で、そこに柄が付いています。ピンは根元からわずかに曲がっていて、全部が同じ方向を向いています。柄を持って面をこちらへ向けると、ピンの先がそろって手前側に傾いているのがわかります。この傾きが、道具としての性格をつくっています。
なぜ曲がっているのか。まっすぐなピンは、毛の間をそのまま通り抜けてしまうからです。通り抜けるだけなら、絡んだ束はそこに残ります。ピンが曲がっていると、先が毛に引っかかり、束を分ける方向へ力が働きます。つまり曲がりは飾りでも作り方の都合でもなく、引っかけるための形です。ここまでは、道具として素直な設計です。
問題は、引っかけるための形が、同時に別の性質を持っている点にあります。ピンの先は面に対して斜めを向いているので、面を寝かせて当てているつもりでも、押しつけた瞬間に先の向きが皮膚のほうを向きます。まっすぐなピンなら、押した力はピンの軸に沿って逃げます。曲がったピンでは、押した力が先端の一点に集まります。スリッカーブラシが「力を入れてはいけない道具」と言われてきた理由は、この一点に尽きます。
| 部位 | 何のための形か | 押しつけたときに起きること |
|---|---|---|
| ピンの先 | 毛に引っかけるため | 面から浮いて、先だけが当たります |
| ピンの曲がり | 絡んだ束を分けるため | 角度が変わり、先が皮膚のほうを向きます |
| 面(パッド) | 力を広い範囲に散らすため | 沈み込んで、端の一列だけが残ります |
| 面の端 | 縁を作って形を保つため | 体の丸みで浮き、そこに力が集まります |
| 柄 | 面の角度を決めるため | 握り込むと、角度を変える余地が消えます |
面を体に沿わせているあいだ、ピンは毛の中に斜めに入っています。ここで手首が少し返ったり、体の丸みで面が浮いたりすると、面と皮膚のあいだの角度が変わり、ピンの先が皮膚に対してまっすぐ近い向きになります。これが「先が立つ」という状態です。同じ力で当てていても、立った瞬間だけ、当たっている面積が何十分の一かになります。強く押したから痛いのではなく、当たる面積が急に小さくなったから痛い。力の話に見えて、実は面積の話です。
ここまでを一行にすると、スリッカーブラシとは、引っかけるために曲げたピンを、面積で受け止めながら使う道具だということになります。面積で受け止めているあいだは、力が散ります。面積が崩れると、同じ力が一点に集まります。道具の説明としては、これで足ります。
ほぐす道具と、梳く道具|スリッカーブラシという形が生まれた背景
被毛にあてる道具は、大きく2つの働きに分かれます。一列に並んだ歯を根元から先へ通していく道具と、面で当てて絡んだ束を少しずつ分けていく道具です。前者を梳く道具、後者をほぐす道具と呼ぶと、話がはっきりします。スリッカーブラシとは、後者の側にある道具です。
| 一列で通す道具 | 面で当てる道具 | |
|---|---|---|
| 歯やピンの並び | 一列。すき間が一定です | 面。すき間が方向によって変わります |
| 力のかかり方 | 進む方向にだけかかります | 面の広さに散らばります |
| 得意なこと | 通るか通らないかを確かめること | からまった束をゆるめること |
| 通らないときに起きること | そこで止まります | 面が沈み、端に力が寄ります |
| 向いている場面 | 仕上げに一度だけ | からまりをゆるめるあいだ |
この表の右の列が、そのままスリッカーブラシの守備範囲です。ほぐすというのは、束をゆるめて、毛と毛のあいだに空気を戻していく働きのことです。通すことが目的ではありません。だから、この道具で「通そう」とすると、通らないところで力が増えていきます。通すための形をしていないので、当然のように通りません。そこで押すと、面が沈み、端の一列に力が寄ります。
背景を少しだけ書いておきます。この形は、手入れを仕事にしている現場で、絡んだ束を分けたり、毛を立ち上げたりする目的で広まってきたとされています。現場では、ほぐす道具と、最後に一列で通す道具が別々に置いてあります。役割が分かれているので、それぞれが無理をしません。家庭では1本だけを買うことが多く、その1本で全部をやろうとします。1本で全部をやろうとした瞬間に、面で当てる道具が、通す道具の仕事まで引き受けることになります。力が要るようになるのは、たいていここからです。
もう一段だけ、考え方を進めます。スリッカーブラシは、1回で毛に触れている面積が広い道具です。面積が広いということは、1回あたりの力を小さくできるということでもあります。設計としては、力を小さく分けるための形をしています。その道具を強く使うのは、設計の向きと逆のことをしていることになります。毎日のケアで、この道具が疲れるものになっているとしたら、たいていは向きが逆になっています。
力の向きを決めているのは、握り方のほう|スリッカーブラシの考え方
ここが、この記事でいちばん書いておきたいところです。力の向きは、意思ではなく、持ち方で決まります。柄を握り込むと、手首から先が一本の棒になります。棒になった手は、角度を細かく変えられません。そして棒になっているので、腕の重さと肩の動きが、途中で減ることなくピンの先まで届きます。力を入れないでおこう、と思っているかどうかは、この経路には関係がありません。
持ち方を変えると、経路のほうが変わります。鉛筆を持つように、親指と人差し指と中指で柄をつまむと、指の関節が3つ、経路の途中に入ります。関節が入っているあいだ、力はそこで逃げます。だから強く当てようとしても、指が先に曲がって当たりません。力を入れないのではなく、力が入らない。この道具では、加減を覚えるより、加減が要らない持ち方にするほうが早く決まります。
| 柄を握って持つ | 鉛筆のようにつまんで持つ | |
|---|---|---|
| 経路に入る関節 | 肩と肘。手首から先は棒になります | 肩・肘・手首に、指の関節が3つ足されます |
| 力の伝わり方 | 腕の重さがそのまま先まで届きます | 指のところで逃げて、先には残りません |
| 面の角度 | 手首ごと動かすので、大きく変わります | 指先だけで直せるので、小さく戻せます |
| 止まるまでの速さ | 腕ごと動くので、止まるのが遅くなります | 指が先に離れるので、その場で止まります |
| 疲れる場所 | 肩と前腕が張ってきます | 指先が疲れて、休むきっかけになります |
| 向いている場面 | 抜けた毛を集めたいとき(力は不要) | 皮膚に近い場所と、からまりの手前 |
力の向きについて、もう一段だけ書きます。面が体に沿っているあいだ、力はピンの本数だけ分けられています。ところが手首を少し返すと、当たっているのが面の端の一列だけになります。同じ力が、本数の少ない一列に乗ります。だから皮膚に届く力を決めているのは、押した強さより、面の角度のほうです。強く押したつもりがないのに赤い線が出るのは、力が強かったからではなく、角度が変わっていたからだ、ということが起こります。
角度が変わりやすい場所も決まっています。脇の下、内もも、耳の後ろ、膝の裏。どれも体が丸く、面が沿いきらない場所です。面が沿わないということは、必ずどこかが浮くということで、浮いた反対側の端に力が集まります。ここで持ち方が握りになっていると、浮いたことに気づく前に一往復が終わります。指でつまんでいれば、浮いた瞬間に指先の当たり方が変わるので、そこで手が止まります。
止まりやすさは、この道具ではそのまま安全側の条件になります。その子が急に動いたとき、握っていると腕ごとついていきます。指で持っていれば、指が先に離れます。毎日のケアで、これがいちばん効きます。ケアの途中で動くのは、痛かったからとはかぎりません。物音でも、姿勢がつらくても動きます。理由が何であれ、動いた先で道具が付いてこないほうが、皮膚にとっては都合がよくなります。
力を入れない道具だと分かってからの変化|毎日の被毛のケアに残った経験
ほぐす道具とは何かがはっきりすると、持っている時間そのものが変わります。全身を1本で通そうとしなくなるので、1回が短くなります。ほぐし終わったかどうかは、通ったかどうかでは判定しません。束がゆるんで、毛と毛のあいだに空気が戻ったかどうかで見ます。判定の基準が変わると、続ける理由がなくなる場所が出てきて、そこで手が止まります。
実際に変わったのは、見ている場所です。以前は毛の側を見ていました。いまは、面が体から浮いていないかを見ています。毛の側を見ていると、毛が乱れているところへ手が向かいます。面の側を見ていると、面が沿わない場所で自然に手が止まります。同じ道具を持っていても、目がどちらを向いているかで、当たる力が変わる。これは、ピンが曲がっているという一点から出てきた話です。
皮膚については、線を引いておきます。地肌に細い線状の赤みが出たときは、力を弱めるより先に、持ち方と面の角度を見てください。力を弱めても、握ったままでは角度が動きます。角度が動けば、弱めた力でも先は立ちます。逆に、指でつまむ持ち方にすると、力を意識しなくても角度が小さく収まります。この道具の問題は、ほとんどが強さではなく角度のほうから来ます。
スリッカーブラシを置いたあとにも、手の入れどころがあります。面が浮いた場所は、その日いちばんピンの先が皮膚のほうを向いた場所です。どこで浮いたかは、指でつまんで持っていた人の指先にしか残りません。そこで、ブラシを置いてから、浮きやすい4か所——脇の下、内もも、耳の後ろ、膝の裏——へ戻ることにしています。持っていくのは mofuwa スキンケアミストです。中身は、三室ダブルイン型の電解分解技術(特許5253483)でつくられた電解水で、水以外のものを足していません。道具の中身を形の側から見てきた記事なので、ここも成分表ではなく、水の作り方のほうで選びました。布に少し取って、地肌が見えている側へ当てて離す。この段でやるのはそれだけで、束をゆるめる仕事はブラシの側に残したままにしておきます。
スリッカーブラシとは、細く曲がった金属のピンが面に並んでいるブラシのことです。曲がりは毛に引っかけるための形で、同じ形が、押しつけた瞬間に皮膚へ先を向ける形でもあります。だから決めるのは力の強さではなく、持ち方と、面の角度という力の向きのほうです。柄を握らず、鉛筆のようにつまんで持つと、指の関節が3つ経路に入り、力が入らなくなります。加減を覚えるのではなく、加減が要らない形にしておく、というのがこの道具の考え方です。
地肌に線状の赤みが残る、同じ場所をなめ続けている、ブラシを見ただけで逃げるようになった、触られると痛がる、フケが増えた、かさぶたができている、以前は平気だった場所を嫌がるようになった。こうした変化が続くときは、道具や持ち方を変えて様子を見る前に、動物病院にご相談ください。皮膚の側に何かが起きていて、その結果として当たり方が痛く感じられている場合もあります。いつから、体のどこで、どの道具を使っていたときかをメモして持っていくと、その場で切り分けてもらえます。
最後にもう一度だけ。この道具について覚えることは、持ち方ひとつで足ります。ピンが曲がっているから引っかかる。引っかかるから、押すと先が立つ。立たせないために、力が入らない持ち方にする。毎日のケアで手に取る道具のうち、ここまで単純に説明がつくものは、そう多くありません。スリッカーブラシとは、そういう道具です。
Product
mofuwa スキンケアミスト
200ml / 3,300円(税込)
アルコール・添加物・香料・界面活性剤・鉱物油・オイル・着色料・防腐剤の8つがフリー。気になる部分に直接なじませて、肌のコンディションを整えます。
商品ページを見る本記事は日常のお手入れに関する情報提供を目的としており、疾病の診断・治療・予防を目的とするものではありません。皮膚や体調に異常が見られる場合は、自己判断せず動物病院にご相談ください。
