C12Q&A・豆知識
マラセチアとは?皮脂を好む酵母のなかま
診察のあとで「マラセチアが少し多いですね」と言われて、帰り道の信号待ちでその名前をそのまま検索した、という人がいます。先に定義を書きます。マラセチアとは、皮脂を好む酵母のなかまで、健康な皮膚にもいる常在菌の一種です。ここでいちばん大事なのは、いること自体は異常ではないという点です。名前が付いているので病名のように見えますが、これは菌の側の名前であって、状態の名前ではありません。検索して出てくる写真が強いものばかりなので、名前を聞いた日に不安になる人が多いのですが、健康な犬や猫の皮膚からも、ふつうに見つかります。この記事では、マラセチアとはどこにいて、なぜ数が増えることがあり、家で分かるのはどこまでなのかを、8つの問答に分けて書きます。最後に、この言葉を3つの文に畳んで持ち帰れる形にしています。
マラセチアとは何ですか。まず一言で答えます
マラセチアとは、皮脂を好む酵母のなかまで、健康な皮膚にもいる常在菌の一種です。これが定義のすべてです。ここから先は、この一文を分解していくだけになります。
3つの言葉が入っています。順に開きます。酵母とは、カビと同じ真菌のなかまのうち、丸い形で単独に増えていくタイプのものを指す呼び方です。パンやお酒に使われる酵母と同じくくりですが、種類は別です。常在菌とは、その場所にふだんからいる菌のことです。入ってきた菌ではなく、もともと住んでいる側です。そして皮脂とは、皮脂腺から出る脂で、被毛と皮膚の表面を覆っているものです。マラセチアは、この皮脂を栄養にして生きているとされています。
定義を言い切ったうえで、そこに含まれていないことも書いておきます。この定義には「悪いもの」という意味は入っていません。マラセチアとは何かという問いの答えは、菌の種類の説明までです。その子の皮膚でいま何が起きているか、という話は、定義とは別のところにあります。そこは家では判断できないので、この記事では診察室に渡します。
この記事では、断定を避けた書き方をしている箇所がいくつかあります。マラセチアとは何かという定義の部分は言い切りますが、その子の皮膚で何が起きているかについては言い切りません。菌の種類の話は辞書に書いてありますが、目の前の1頭の話は、診察でしか決まらないからです。書ける線をここで引いています。
マラセチアは、皮膚のどこにいるのですか
皮脂を好むという性質から、いる場所はだいたい決まってきます。皮脂腺が多い場所と、皮膚どうしが重なって空気が通りにくい場所です。犬でも猫でも、この2つの条件が重なる場所が、皮膚の上での住み心地がいい場所になります。
| 場所 | どちらの条件か | 家で見るときの手がかり |
|---|---|---|
| 耳のなか | 皮脂が多い/空気が通りにくい | 耳を振る回数、においの出方 |
| 口のまわり・あご | 皮脂が多い | 触ったときのべたつき |
| わきの下 | 皮膚が重なる | 腕を上げないと見えません |
| 足の指のあいだ | 皮膚が重なる/湿りやすい | なめている回数 |
| 尾のつけ根 | 皮脂が多い | 毛をかき分けないと見えません |
| 首まわりの毛の下 | 皮脂が多い/空気が通りにくい | 首輪の下は特に見落とされます |
この表を見て「うちの子の気になっている場所と同じだ」と思った方が多いと思います。ただし、場所が一致することは、そこにマラセチアが多いという意味にはなりません。皮脂が多くて空気が通りにくい場所は、そもそも別の理由でも変化が出やすい場所だからです。場所が合っているというのは、手がかりの1つにしかなりません。
被毛の下という条件も加えておきます。毛の密度が高いところは、それだけで空気の通りが落ちます。毎日ブラッシングしている家でも、地肌まで空気が入っているかどうかは別の話です。表面の毛が整っていることと、根元が乾いていることは、同じではありません。ここは家でも触って確かめられる部分なので、あとの項でもう一度書きます。
いること自体は大丈夫なのですか、という疑問について
答えを先に書きます。いること自体は、異常ではありません。健康な犬や猫の皮膚からも見つかるとされています。だから「マラセチアがいた」という事実だけでは、まだ何も決まっていません。ここが、この言葉でいちばん誤解されている部分です。
常在菌とは、そもそもそういうものです。皮膚の上には、ふだんから複数の種類の菌が住んでいて、そのバランスの中で全体が保たれているとされています。マラセチアは、そのメンバーの1つです。全部いなくすればいい、という話ではありません。問題になりうるのは、いることではなく、バランスが崩れたときです。
では、どこからが「多い」のか。これは家では決められません。数が多いかどうかは、実際に皮膚の状態を見て判断されるものです。においがする、べたついている、というのは家で気づける手がかりですが、手がかりと診断は別のものです。「マラセチアが多い状態かどうか」を決めるのは動物病院の仕事で、この記事の役目ではありません。
名前を知ると、家で何とかしたくなります。ですが、においやべたつきが気になるからといって、洗う回数を増やしたり、新しいものを試したりする前に、まず動物病院にご相談ください。皮膚の変化には複数の理由があり、家で条件を1つずつ変えてしまうと、診察のときに何が効いていたのかを切り分けられなくなります。判断の材料は、減らさないほうが得です。
なぜ、数が増えることがあるのですか
皮脂を好む、という性質から素直に考えられるのは3つです。皮脂の量、湿度、温度。この3つが増える方向に動くと、住み心地がよくなる、という理屈になります。ただし、これは一般的な説明であって、その子で実際にどれが効いているかは別の話です。
- 皮脂の量/もともと多い時期・多い場所があります。洗いすぎて減らそうとすると、かえって出る量が動くこともあるとされています
- 湿度/梅雨と夏だけの話ではありません。乾かしきれていない被毛の根元は、部屋の湿度とは無関係に湿ったままです
- 温度/体温に近い温度が保たれる場所ほど条件がそろいます。皮膚が重なる場所は、外気より温度が高くなります
- 空気の通り/毛が密なところ、首輪の下、寝床に当たり続ける面は、通りが落ちます
- 体の側の状態/皮膚のバリアの働きが落ちているときは、同じ条件でもバランスが動きやすいとされています
この5つのうち、家で動かせるのは真ん中の3つです。乾かしきる、空気を通す、寝床の面を変える。いちばん上と下は、家では動かしにくい部分です。動かせるものと動かせないものを先に分けておくと、無駄な手が減ります。
乾かしきるという工程について、もう少し具体的に書きます。表面の毛が乾いていることと、地肌まで乾いていることは違います。指を毛の中に入れて、根元を直接さわってください。ひやりとするなら、まだ湿っています。犬でも猫でも、毛が密なところほど、この差が大きく出ます。毎日のケアで、ここだけは確かめる価値があります。
もう一つ、洗う回数の話もしておきます。皮脂を全部落とすことを目的にすると、たいてい逆方向に行きます。洗うことは、量をゼロにすることではなく、量を戻すことです。回数を増やす前に、いま乾かしきれているかを見るほうが、順番として先です。
家で分かるのは、においとべたつきまでです
ここが、この記事でいちばん線を引きたいところです。家で気づけるのは、においとべたつきの2つまでです。それ以上のことは、家では分かりません。写真と見比べて当てにいく方法は、うまくいきません。皮膚に出る変化は見た目が似ているものが多く、原因まで戻ることができないからです。
| 内容 | どこで決まるか | |
|---|---|---|
| 分かる | においが変わったこと | 毎日そばにいる人がいちばん早く気づきます |
| 分かる | 触ったときのべたつき | 指の腹で、地肌に近いところを触ります |
| 分かる | なめる回数・かく回数が増えたこと | 行動なので数えられます |
| 分かる | いつから変わったか、という日付 | 記録が残っていれば、これが最大の手がかりです |
| 分からない | 何が増えているのか | 動物病院 |
| 分からない | 多いのか、ふつうの範囲なのか | 動物病院 |
| 分からない | ほかに理由があるのかどうか | 動物病院 |
においについて、少しだけ具体的に書きます。「いつもと違う」で十分です。どういうにおいか、という表現は人によって違いますし、言い当てる必要はありません。毎日その子と暮らしている人が「変わった」と感じたなら、それが情報です。においの表現より、変わった日付のほうが診察では役に立ちます。
べたつきのほうは、触る場所を決めておくと比べられます。尾のつけ根、あごの下、耳のうしろ。この3か所を、毎日のブラッシングのついでに指の腹で触ります。被毛の表面ではなく、毛をかき分けて地肌に近いところです。毎日触っていると、変わった日に気づけます。1回だけ触っても比べる相手がないので、意味が出るのは続けたときです。
名前を聞いたあとに、やらないほうがいいこと
マラセチアという名前を知ると、たいてい手が増えます。ここでは、増やさないほうがいいものを先に挙げます。やることを足すより、やらないことを決めるほうが、結果として早く落ち着きます。
- 洗う回数を自己判断で増やさない/回数は、皮脂の量にも被毛の状態にも効きます。診察の前に動かすと、切り分けができなくなります
- 同じ週に条件を2つ以上変えない/シャンプーを変えて、同時に寝床も変えると、どちらが効いたのか分かりません
- 写真と見比べて当てにいかない/皮膚に出る変化は見た目が似ています。当たっても外れても、次の手が変わりません
- 「マラセチアだから」と決めてから相談しない/先に答えを決めて行くと、聞くべきことが減ってしまいます
- 気になる場所をこすらない/確かめようとして触りすぎると、そこだけ状態が変わります
3つ目について補足します。検索して出てくる写真は、状態がはっきり出ているものが選ばれて載っています。家で見比べる相手としては、条件が違いすぎます。それに、見た目が一致したとしても、家でできることは変わりません。当てにいく時間を、記録を取る時間に回したほうが、診察で役に立ちます。
4つ目も大事です。「マラセチアとは何ですか」と調べてからの相談は、話が早くなります。ただし「マラセチアです」と決めてから行くと、それ以外の可能性を一緒に見てもらう機会が減ります。持っていくのは名前ではなく、日付と回数です。名前を出すのは、診察室の側の仕事にしておいてください。
動物病院へ行く日に、持っていくと話が早くなるもの
相談に行くと決めたら、持っていくものが4つあります。どれも家にあるもので、当日の朝に作れるものではありません。気になり始めた時点から書きためておくと、そのまま渡せます。
-
気づいた日付
においが変わった日、べたつきに気づいた日、なめる回数が増えた日。それぞれ別の日付として書きます。まとめて「最近」にしないでください。日付が3つあると、順番が見えます。
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場所
耳、あご、わきの下、足の指のあいだ、尾のつけ根。部位の名前で書きます。「体のあちこち」ではなく、どこから始まったかが分かる形にします。
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毎日のケアの中身
洗う頻度、乾かし方、使っているもの。変えたことがあれば、変えた日付も一緒に。シャンプーの銘柄を変えた、寝床を替えた、といったことがそのまま材料になります。
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使っているケア用品の現物
容器ごと持っていくのがいちばん確実です。難しければ、成分が書かれている面の写真を撮っておきます。商品名だけでは中身が伝わりません。
4つ目について、もう少し書いておきます。毎日の手入れに mofuwa グルーミングスプレーを使っている家なら、その容器をそのまま持っていってください。無香料で、界面活性剤を使っていないケアスプレーです。成分が書かれている面を一緒に見てもらえると、診察室の側は中身を推測せずに済みます。気になる状態への対処としてではなく、毎日の手入れの一部として使っているものほど、皮膚に触れている時間は長くなります。布に含ませて尾のつけ根やあごの下を拭いているなら、拭いている場所も一緒に伝えてください。グルーミングスプレーを当てている場所と、においやべたつきに気づいた場所が重なっているかどうかは家では決められませんが、伝えておけば診察室で見比べてもらえます。いま何を使っているかが分かると、診察室の側で条件を1つ減らせます。
持っていくものが4つそろうと、診察は短くなります。短くなるのは説明が上手だからではなく、材料がそろっているからです。犬や猫は自分で経過を話せないので、そこを埋めるのが飼い主の役目になります。マラセチアという言葉を調べたこと自体が、その準備の一部になっています。
マラセチアという言葉を、3つの文に畳んで持ち帰る
最後に、この記事を3つの文にまとめます。この3つだけ覚えて帰っていただければ、この言葉についてはもう調べ直さずに済みます。
| 文 | この文が消してくれる心配 | |
|---|---|---|
| 1 | マラセチアとは、皮脂を好む酵母のなかまで、健康な皮膚にもいる常在菌の一種です | 名前を聞いただけで病気だと思ってしまうこと |
| 2 | いること自体は異常ではなく、問題になりうるのは数のバランスが崩れたときです | 「いた=悪いこと」と受け取ってしまうこと |
| 3 | 家で分かるのはにおいとべたつきまでで、それ以上は動物病院で見てもらうものです | 写真と見比べて当てにいこうとすること |
この3つを持っていると、明日から皮膚の見方が少し変わります。「菌がいるかどうか」を気にするのをやめて、「乾いているかどうか」「空気が通っているかどうか」を見るようになります。後者は家で動かせる条件です。前者は動かせません。言葉を知る意味は、動かせる場所と動かせない場所の線が引けるようになることです。
毎日のケアに落とすなら、やることは2つだけです。洗ったあとは地肌まで乾かしきる。尾のつけ根・あごの下・耳のうしろを、指の腹で毎日1回触る。被毛の表面ではなく根元です。この2つは、マラセチアという言葉を知らなくても意味のある習慣ですが、言葉を知ったあとのほうが続きます。理由が分かっているからです。
においが数日たっても戻らない、べたつきが広がっている、同じ場所をなめ続けている、耳を振る回数が増えた、地肌が赤い、毛が薄くなってきた、元気の落ち方が続いている。こうした変化があるときは、ケアを増やす前に動物病院にご相談ください。犬でも猫でも、皮膚に出る変化は理由が複数あり、家では切り分けられません。気づいた日付と、触った場所と、いま使っているものを持っていくと、その場で線を引いてもらえます。
相談に行く日が決まっても、尾のつけ根・あごの下・耳のうしろを指の腹で触る毎日1回は、そのまま続けてください。触った日数が、そのまま経過になります。マラセチアという言葉は、その記録を取る場所を決めるために覚えておく言葉です。
Product
mofuwa グルーミングスプレー
300ml / 2,970円(税込)
特許電解水を使った、吹きかけてそのまま梳かせるケアスプレーです。無香料・界面活性剤不使用。ブラッシング前や散歩のあと、毎日きれいにしておきたいときに。
商品ページを見る本記事は日常のお手入れに関する情報提供を目的としており、疾病の診断・治療・予防を目的とするものではありません。皮膚や体調に異常が見られる場合は、自己判断せず動物病院にご相談ください。
