C12Q&A・豆知識

毛玉はハサミで切っていい?

公開日 2022年7月8日|文=mofuwa編集部

明るい部屋で、やわらかい敷物の上に寝そべってコームを通されている淡い色の長毛の猫
毛玉に刃を入れる前に決めるのは、切るかどうかより、どの向きで入れるかです。写真:RDNE Stock project/Pexels

ブラッシングの途中で指が止まって、コームを何度通してもほどけない毛玉が残る。そこで手が伸びるのがハサミです。切ってよい毛玉はあります。ただし、刃を入れてよい向きは1つだけです。危険が生まれるのは、ハサミという道具そのものより、地肌と平行に刃を寝かせた瞬間のほうです。毛玉は根元の側で毛どうしが絡んでいて、つまんで持ち上げると皮膚が一緒についてきます。持ち上がった皮膚と、寝かせた刃は、同じ面を走ります。この記事では、切ってよい毛玉と切らない毛玉の線を先に引いたうえで、刃の向き、切ったあとに残るもの、家で手を止める場所までを8つの問答で書きます。

毛玉はハサミで切っていいですか

短い答えから書きます。毛玉と地肌のあいだに指が1本すっと入るなら、ハサミを使う場面はあります。指が入らないなら、ハサミは使いません。この線は毛玉の大きさでは決まりません。直径が小さくても根元まで巻き込んでいることがありますし、大きくても毛先の側だけで絡んでいることがあります。大きさではなく、地肌との距離のほうを見ます。

そのうえで、この記事の本題は次の一点です。切ってよい毛玉であっても、刃を入れてよい向きは1つだけです。切る・切らないを決めたあとに、もう1回だけ判断が残っています。ここを飛ばして刃を入れると、切ってよい毛玉でも危険が出ます。

Note家でハサミを使わないと決めるのも、正しい答えです

毛玉の手入れで「家ではハサミを持たない」と決めている家庭は多く、それはそれで筋の通った選び方です。刃物を使わなければ、切る事故は起きません。この記事は、使わないという選択を否定するものではなく、それでも使うと決めたときに、どこで危険が上がるのかを書くものです。読んだうえで「うちは使わない」に戻っていただいて構いません。

地肌と平行に刃を寝かせると、なぜ危険になるのですか

理由は、皮膚の側にあります。毛玉は、地肌から生えている毛を根元の側で巻き込みながらできていきます。抜けた毛が外に落ちずに残り、生えている毛と絡み、動くたびに締まっていきます。締まった束は、根元でつながっている毛を引っぱります。だから毛玉をつまんで持ち上げると、その下の皮膚が一緒に持ち上がります。

犬や猫の皮膚は、人が思っているよりよく伸びます。首の後ろやわきの皮膚は、指でつまむと数センチ持ち上がります。毛玉を持ち上げたときに一緒に上がってくるのは、この伸びる皮膚です。ここに地肌と平行の刃が入ると、刃は毛だけを通っているつもりで、持ち上がった皮膚の面をなぞることになります。危険なのは刃の鋭さではなく、刃と皮膚が同じ向きに並んでしまうことです。

刃を寝かせたときと、立てたときで何が変わるか
見る項目地肌と平行に寝かせる地肌から離す向きに立てる
刃の進む向き皮膚の面と同じ向きに走る皮膚から離れる向きに走る
刃の下にあるもの毛玉と皮膚が重なって見えない毛束だけ。地肌との距離が見える
その子が動いたとき刃が皮膚をなぞる位置にある刃が皮膚から遠ざかる位置にある
一度に切れる量束をまとめて落とせる少しずつしか進まない
切ったあとの断面同じ長さで横一列にそろう縦に割れて、長さがばらつく
やり直し落としたぶんは戻らない途中でやめられる
危険の出どころ皮膚と刃の距離が読めない手が滑ったときの向き
刃を寝かせたときと、立てたときの違い 毛玉に刃を入れる向きを、刃の走る方向・刃の下の見え方・進む速さ・断面・やり直しの5項目で左右に並べた図 同じハサミでも、向きが変われば起きることが変わります 地肌と平行に寝かせる 刃が皮膚と同じ向きに走る 刃の下が毛か皮膚か見えない 束をまとめて落とせる 断面が横一列にそろう 落としたぶんは戻らない 地肌から離す向きに立てる 刃が皮膚から遠ざかる 地肌との距離が見える 少しずつしか進まない 断面の長さがばらつく 途中でやめられる 速く終わるやり方のほうが、危険は大きくなります
左右を分けているのは刃の鋭さではなく、刃と皮膚が並ぶ向きです。

表の「一度に切れる量」の行が、いちばん厄介なところです。寝かせた刃は速く進みます。速く終わるやり方ほど、危険が高いほうに寄っています。毛玉を早く消したいという気持ちと、安全な向きは、真逆を向いています。時間がかかる向きのほうを選ぶ、という決め方でおおむね合っています。

「地肌から離す向き」とは、どう刃を入れることですか

言葉だけだと分かりにくいので、動きに置き換えます。ハサミの先を、地肌に対して垂直に近い角度で立てて、毛束を縦方向に割く。それだけです。横に切り落とすのではなく、束に切れ目を入れて分ける作業だと考えてください。切るというより、割く。ここが「毛玉 ハサミ」で調べたときに、いちばん抜け落ちている部分です。

  1. 毛玉と地肌のあいだに、指を1本入れて支える

    まず、毛玉の下に人差し指を横から差し込みます。この指は、刃と皮膚のあいだに置く壁です。指が入らなければ、そこで作業は終わりです。入ったら、その指を抜かずに最後まで支えとして残します。指を抜いた瞬間に、刃と皮膚のあいだにあるものがなくなります。

  2. 毛先の側から、刃先を立てて縦に切れ目を入れる

    毛玉のいちばん外側、毛先に近いところから始めます。刃先を地肌から離す向きに立てて、束に縦の切れ目を1本入れます。根元まで一気に通そうとしないでください。1本入れたら、いったんハサミを置きます。切れ目が入るだけで、束は細くなります。

  3. 切れ目を入れたら、コームで割れるか試す

    細くなった束に、目の粗いコームを毛先の側から当てます。ここでほどければ、それ以上切る必要はありません。ハサミは束を細くする道具で、毛玉をなくす道具ではありません。ほどけないときだけ、次の切れ目を入れます。

  4. 切れ目とコームを、交互に繰り返す

    1本切って、コームで試して、また1本切る。この往復を、根元に近づくにつれてゆっくりにしていきます。根元まで残り少しというところで指が窮屈になったら、そこが家でやめる場所です。最後の数ミリを取りきる必要はありません。

この手順の目的は、毛玉をきれいに取り去ることではありません。ブラッシングでほどける状態まで束を細くすることです。仕上がりを求めると、根元へ根元へと刃が下がっていきます。下がるほど、指が入る余地がなくなり、危険が上がります。途中でやめられる作業に変えておくこと自体が、安全の中身です。

指が入らない毛玉に刃を入れないのは、どういう理由ですか

理由は、確かめられないからです。指が入らないということは、毛玉と皮膚のあいだに空間がないということです。空間がなければ、刃の下に何があるかを見ることも、触って確かめることもできません。毛玉の色と地肌の色が近い場所では、目でも区別がつきません。分からないまま刃を入れる作業は、上手か下手かの前に、判断の材料が足りていません。

この5つは、道具や技術で埋められるものではありません。だから、指が入らない毛玉は「上手に切る」対象ではなく、「切らないと決める」対象です。トリミングサロンでは、こうした毛玉はハサミではなくバリカンで地肌に沿わせて処理します。刃が皮膚に触れない構造の道具を使うところが、家との違いです。

もう1つ、家で見落とされやすい合図があります。毛玉の下の地肌が赤い、湿っている、においがある、かさぶたがある。触ると声が出る。毛玉のまわりだけ毛が薄い。このいずれかがあるときは、指が入るかどうかに関係なく、ハサミを置いて動物病院にご相談ください。毛玉の下は外から見えないので、そこだけは家では確かめられません。

どんなハサミなら大丈夫ですか|刃の長さと先の形

道具の話をします。ただし先に断っておくと、道具を変えても、指が入らない毛玉が切ってよい毛玉に変わることはありません。ここで比べるのは、切ってよい毛玉に対して、どの形の刃なら危険が小さいか、という範囲の話です。

刃の形ごとに、毛玉に対して何が変わるか
刃の形毛玉に対して起きること家で使うなら
先が丸いもの先端が皮膚に当たっても点で刺さりにくい縦に切れ目を入れる用途に向く
先がとがったもの束の細かいところに届くが、先端が読みにくい毛玉には向かない
刃が短いもの一度に進む距離が短く、途中で止めやすい割く作業に向く
刃が長いもの見えない範囲まで刃が届いてしまう毛玉には向かない
すきバサミ束を細くしやすいが、根元では歯が皮膚に届く毛先の側だけに使う
カーブしたもの体の丸みに沿うぶん、刃が地肌と平行になりやすい毛玉には向かない

表の下2行が、大丈夫だと思われがちな組み合わせです。すきバサミもカーブした刃も、仕上がりのための道具で、毛玉を割くための道具ではありません。とくにカーブした刃は、体に沿わせやすいという長所が、そのまま「地肌と平行になりやすい」という危険につながります。長所と危険が同じ性質から出ています。

選び方をまとめると、先が丸くて、刃が短いもの。それを、毛先の側で、縦に、少しずつ。この4つがそろっていれば、家でやれる範囲としては大丈夫と言える形になります。そろわないときは、道具を買い足すより、その毛玉を家の作業から外すほうが早い判断です。

切ったあと、毛先と根元はどうなりますか|いちばん知りたい後始末

切って終わりにすると、同じ場所に毛玉が戻ります。理由は、切った断面が新しい絡みの芯になるからです。毛は、毛先ほど細く、根元ほど太くなっています。刃で切ると、そこには太い断面がそろって残ります。細い毛先どうしより、太い断面どうしのほうが引っかかりやすく、しかも長さがそろっているぶん一斉に絡みます。

後始末でいちばん省かれるのが、4番目です。切って毛玉が取れると、作業が終わった気になります。ですが、毛玉ができた原因は根元に溜まった抜け毛のほうにあるので、そこを通さないかぎり材料は残ったままです。切った直後の被毛は絡みがほどけているので、この日がいちばんコームの通りやすい日でもあります。

もう1つ、切ったあとの被毛は静電気を持ちやすくなります。断面が増えると毛どうしが寄りやすくなり、乾いた空気の時期はそこから新しい絡みが始まります。うるおいのある状態でコームを通すほうが、毛先の側から割いていく作業も進みます。乾ききった被毛のまま無理に通すと、切っていない場所にまで絡みを作ることがあります。

換毛期に毛玉が増える時期、ハサミの出番は増えますか

増やさないほうが早く終わります。換毛期に増えているのは毛玉そのものというより、被毛の中に留まっている抜け毛の量です。抜けた毛はすぐ床に落ちるわけではなく、まわりの毛に引っかかって残ります。その滞留した毛が芯になるので、同じ場所に早く育ちます。ハサミの回数を増やすと、断面が増えて、芯の材料まで増えます。

この時期にやることは、切る回数を増やすことではなく、切らずに済ませる回数を増やすことです。具体的には次の4つです。危険を減らす方向と、手間を減らす方向が、ここでは一致します。

水を使わない日のケアとして、mofuwa グルーミングスプレーのような洗い流さないタイプを、ブラッシングの前に使う手があります。特許電解水を使った無香料・界面活性剤不使用のスプレーで、被毛を落ち着かせてからコームを入れると、毛先の側から割いていく作業がしやすくなります。毛玉を取るための道具ではなく、乾いた被毛のまま無理に引かないための下ごしらえとして使うものです。洗える日には、アミノ酸系の洗浄成分を使った mofuwa モイストシャンプーのように、洗ったあとのうるおいの残り方まで設計されているものを選んでおくと、洗う日と洗わない日でコームの通し方をそろえやすくなります。ハサミを持つ回数は、その前の工程で減らせます。

家でハサミを置く線と、相談の目安|残る疑問

最後に、線を1本にまとめます。家でハサミを使うのは、指が1本入る毛玉に、毛先の側から、縦に、刃先を地肌から離す向きで、途中でやめられる範囲まで。ここを1つでも満たさないなら、切りません。この5つのうち、いちばん先に崩れるのは「途中でやめられる範囲まで」です。あと少しで取れそう、という場面が、いちばん危険が上がる場面になります。

家で続けてよい場面と、手を止める場面
場面続けてよい手を止める
指の入り方毛玉の下に指の腹が入る指が途中で止まる
皮膚の動き毛玉だけが動く皮膚が一緒に持ち上がる
地肌の見え方根元にすき間が見える詰まっていて見えない
その子の反応そのまま寝ている顔を向ける、体を引く、声が出る
かかった時間数分で細くなっていく10分たっても変わらない
地肌の様子いつもと同じ色赤い、湿っている、においがある

右の列にひとつでも当てはまったら、その毛玉は家の作業から外します。外した先は、トリマーか動物病院です。毛が地肌に張りついている状態は、皮膚の側で何かが起きていることもあります。切れなかったこと自体は失敗ではなく、確かめられないものを確かめずに切らなかった、という判断です。

Caution皮膚に刃が当たってしまったとき

毛玉を切っていて皮膚に刃が当たった、血がにじんだ、切れているかどうか分からない。このときは、その場で毛をかき分けて確かめようとせず、動物病院にご相談ください。毛に隠れて傷の大きさが分かりにくく、時間がたってから腫れてくることもあります。切ってしまったかもしれない、という段階で相談して構いません。毛玉のケアで残る疑問のうち、家で答えを出してはいけないのは、皮膚に何が起きているかという部分です。

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本記事は日常のお手入れに関する情報提供を目的としており、疾病の診断・治療・予防を目的とするものではありません。皮膚や体調に異常が見られる場合は、自己判断せず動物病院にご相談ください。