C09シーン別・暮らし

新幹線・飛行機を楽にする、シニア猫と暮らす人の毎日の習慣

公開日 2023年11月18日|文=mofuwa編集部

明るい光の中、淡い色のキャリーの中でクリーム色の年をとった猫が静かに休んでいる
2時間で動いたのは前脚だけ。老猫にこたえるのは距離ではなく、向きを変えられない時間のほうです。写真:pooliwattano P/Pexels

新幹線が新横浜を過ぎたころ、足元のキャリーの中で、猫が前脚の位置を5センチだけずらしました。2時間のあいだに、その子が体を動かしたのはその一度きりでした。東京から名古屋まで、距離にすれば350キロ。けれどその子にとっての2時間は、350キロを移動した2時間ではなく、同じ姿勢のまま座っていた2時間です。ペットと新幹線に乗る日の話は、たいてい移動そのものの話になります。ただ、老猫の体でいちばん先に効いてくるのは、揺れでも音でもなく、姿勢を変えられないことのほうでした。降りたあと、体の片側だけ被毛が寝ていたのを見て、そのことに気づきました。この記事は、老猫を休憩で外に出す代わりに、キャリーの中で向きを変えられるようにするまでの話です。

2時間で、前脚を5センチ動かしただけでした|新幹線にペットと乗る日が老猫にとって別ものになる背景

ペットと新幹線に乗る前、心配していたのは音でした。発車のベル、トンネルに入るときの気圧、通路を通る人。ところが実際に乗ってみると、その子はどれにも反応しませんでした。反応しないというより、動かなかった、というほうが近い。乗ってから降りるまで、キャリーの中でほぼ同じ形のまま座っていました。前脚の位置を一度だけずらして、あとは動きません。

家での様子を思い出すと、その差がはっきりします。窓辺で昼寝をしているときのこの子は、1時間のあいだに何度も体の向きを変えています。横になり、腹を上に向け、前脚を伸ばし、また丸くなる。寝ているように見えている時間ほど、体はこまめに動いています。新幹線のキャリーの中では、その動きが2時間まるごと止まっていました。シニア期の猫にとっての移動の負担は、まずここに現れます。

降りて家に着いてから、体を触って分かったことがあります。床に接していた側だけ、被毛が寝てぺたんとしていました。反対側は、いつもどおり立っています。2時間、同じ面がずっと体重を受けていたということです。老猫は自分でできる量が減っていて、人が代わる範囲が広がっている、とよく言われます。新幹線でのペットの移動は、その「自分でできる量」がいちばん見えやすい場面でした。

Note動かないことは、落ち着いていることと同じではありません

キャリーの中で静かにしている老猫を見ると、慣れているように見えます。実際、鳴きもせず、爪も立てていません。ただ、動かない理由は2つあって、落ち着いているからと、動けないからは外から区別がつきません。降りたあとの被毛の寝方は、そのどちらだったかを教えてくれる数少ない手がかりでした。新幹線でペットと移動した日は、家に着いてから体を触ってみてください。

こたえているのは移動ではなく、姿勢を変えられないことです|新幹線でペットの老猫が降りたあとに疲れて見える理由

猫がキャリーの中で向きを変えるには、決まった手順が要ります。まず前脚を立て、後ろ脚で体を持ち上げ、狭い空間の中で回り、また下ります。この一連の動作のうち、年をとった猫がいちばん省きたいのは、後ろ脚で体を持ち上げるところです。関節と筋肉の使い方が、若い猫とは変わっているからです。だから、動かないのではなく、動くための最初の一歩が重くなっている。

そこに底の柔らかさが重なります。ふかふかの敷物は快適そうに見えますが、後ろ脚で押したときに沈んでしまうと、力が床に逃げて体が持ち上がりません。若い猫は多少沈んでも勢いで立てます。シニア期に入った猫は勢いのぶんが減っているので、沈む床では立ち上がる回数そのものが減ります。新幹線に2時間乗るあいだ、この差が2時間ぶん積み上がります。

同じキャリーの中でも、若い猫と老猫では起きていることが違います
若い猫老猫
2時間で姿勢を変える回数十数回。落ち着かなくても動く多くて数回。動かない時間が続く
立ち上がるのに要る力勢いでまかなえる後ろ脚で押す力が要る
柔らかい底の影響沈んでも立てる沈むと立ち上がらなくなる
降りたあとの被毛全体が同じように立っている接していた側だけ寝ている
回復にかかる時間降りて数十分その日いっぱいかかることがある

つまり、老猫にとっての新幹線は、350キロを移動したことがこたえているのではありません。連続して同じ姿勢でいた時間が、そのまま負担になっています。だとすれば、動かせる条件も変わります。速く着くことでも、揺れの少ない席を選ぶことでもなく、2時間を、姿勢が変わる2時間にできるかどうかです。ペットと新幹線に乗る日に見るところが、ここで一つ移ります。

出さずに、中で向きを変えられるようにする|新幹線でペットと移動する日、老猫の体に起こる変化を減らす

姿勢を変えてほしいなら、休憩のときにキャリーから出せばいい。最初はそう考えました。けれど、出すと戻すという動作が1回増えます。抱き上げられて外に出た老猫は、そこで落ち着くより先に、戻されることに身構えます。結果として、出したあとのほうが固まる時間が長くなりました。だから方向を変えて、出さずに、キャリーの中で姿勢が変わるようにしました。前の晩にできる支度が5つあります。

  1. 底に、沈まない板を1枚入れる

    キャリーの底の大きさに合わせて、薄い板を1枚敷きます。段ボールを2枚重ねたものでも構いません。その上に、薄い敷物を1枚だけ。ふかふかにしないのがこの支度の要点です。後ろ脚で押したときに床が沈まなければ、年をとった猫でも立ち上がる動作が軽くなります。新幹線に乗る日だけの特別な道具は要りません。

  2. 敷物を2枚重ねて、途中で下の1枚を抜く

    薄い敷物を2枚重ねておき、移動の半分あたりで下の1枚だけを引き抜きます。高さが1センチ変わるだけですが、体が接している面の角度が変わり、同じ場所に体重がかかり続けるのが一度切れます。猫が自分で動かなくても、床の側を動かせば、接触面は変えられます。抜くときに体を持ち上げる必要はありません。

  3. 詰め物で固めず、前脚を伸ばせる幅を残す

    揺れないようにと、まわりをタオルや衣類で固めてしまうと、姿勢を変える余地までなくなります。残しておくのは、前脚をまっすぐ伸ばせるだけの長さです。その子が最初にする動きは、たいてい前脚を伸ばすことでした。そこが埋まっていると、次の動作に進めません。

  4. 90分に1回、キャリーごと向きを90度変える

    人の側で持ち上げて、置く向きを変えます。窓側だった面が通路側になり、光と音の来る方向が入れ替わります。猫は動いていませんが、体にかかる揺れの向きは変わります。ペットと新幹線に乗る日の中で、人ができるいちばん軽い介入がこれです。中を開けないので、その子の側は何も起きません。

  5. 着いたら、抱き上げずに扉を開けて待つ

    降りて落ち着ける場所に着いたら、キャリーを床に置き、扉だけ開けて離れます。自分で出てくるまでの時間が、その日の姿勢の負担を測る目安になります。いつもは1分で出てくる子が10分出てこなければ、その2時間は長かった、ということです。次の新幹線では、支度をもう1つ足します。

Point休憩でキャリーから出すことは、必須ではありません

移動が長いときほど、途中で出して体を伸ばさせたくなります。ただ、老猫の場合は出す・戻すの2動作が増えるほうが、姿勢を変える1回より重くなることがあります。判断の材料は、家でその子がキャリーからどれくらいで自分で出るか。ふだんから自分で出入りしている子なら出す価値はあり、家でも人が出してあげている子なら、中で向きを変えられるようにするほうが向いています。新幹線の中でその子を試さない、というのがこの支度の考え方です。

3回めから、支度が前の晩に移ります|老猫とペットの新幹線を重ねた経験が、毎日のケアに戻ってくる

1回めは、当日の朝に全部やっていました。板を切り、敷物を選び、キャリーの中を作りながら、出発の時刻が迫ってきます。2回めは、前の晩に板だけ用意しました。3回めからは、支度そのものが前の晩に移りました。やることは同じでも、当日の朝に判断が残っていないというだけで、家を出るまでの空気が変わります。猫は、人が急いでいる朝をよく見ています。

もうひとつ、経験を重ねて変わったことがあります。キャリーを、移動の日にだけ出すのをやめました。ふだんから扉を開けたまま部屋の隅に置き、中に例の板と薄い敷物を入れておく。そうすると、その中で昼寝をする日が出てきます。新幹線に乗る日は、いつも寝ている箱がそのまま動くだけになりました。ペットとの移動で用意するものが、毎日の家具の1つに変わっていったということです。

降りたあとの被毛の話も、そこにつながります。床に接していた側は、2時間ぶんの体重と皮脂を、同じ面で受け続けた場所です。帰った日にさわるのは、毛が寝てしまったこの1面だけで足ります。猫用 mofuwa グルーミングウォーターを清潔な布に含ませて、寝ている面を毛の流れに沿って一往復させる。中身は電解水で、根元にたまった余分な脂と混ざり合って、布のほうへ移ります。必要な皮脂は残るので、寝ていた毛が起きたところで手を止められます。

猫のために変えてあるのは、容器のほうです。グルーミングウォーターはチューチューボトルで、押し出すときに噴射音が出ません。2時間ぶんの走行音と車内放送を聞いてきた耳のそばで使うものなので、ここは中身より先に効いてきます。猫は毛づくろいで自分の体をなめるので、口に入る前提でつくられているかどうかも、同じだけ大事です。中身の成分は、飲みものに使う水に定められた清涼飲料水の規格基準に載せて確かめてあります。なめた量を数えなくていいので、布に含ませる量も気にせずに済みます。地肌に直接たらさず、布に取ってから当ててください。

Caution移動のあとに続く変化は、疲れとして片づけないでください

着いた日から食欲が戻らない、水を飲む量が減った、丸1日たっても隠れたままで出てこない、接していた側の皮膚が赤い、同じ場所をなめ続けている、後ろ脚の運びがふだんと違う。こうした変化が続くときは、次の移動の支度を考える前に、動物病院にご相談ください。シニア期の猫は、変化がゆっくり出るぶん、移動の疲れと重なると分かりにくくなります。相談のときは、乗っていた時間・キャリーの中の状態・降りてから自分で出るまでにかかった分数の3つをメモして持っていくと、その場で切り分けてもらえます。

新幹線でペットと移動する日に、こちらが動かせるものはあまり多くありません。時間は短くならず、その子の体が若返るわけでもありません。それでも、床の硬さと、敷物の枚数と、キャリーを置く向きは、前の晩に決められます。2時間を短くするのではなく、2時間のあいだに姿勢が変わる回数を1回でも増やす。老猫と新幹線に乗る日にできるのは、そこまでです。そしてその支度は、移動しない日の毎日のケアに、そのまま残ります。

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本記事は日常のお手入れに関する情報提供を目的としており、疾病の診断・治療・予防を目的とするものではありません。皮膚や体調に異常が見られる場合は、自己判断せず動物病院にご相談ください。