C14トリマー/獣医師視点

多頭を回すときの順番の決め方

公開日 2024年2月11日|文=mofuwa編集部

明るい部屋のクリーム色のクッションの上で、並んで休んでいる毛色の薄い小型犬と白い猫
多頭の順番を決めているのは、待っている場所ではなく、終わった子が戻る場所です。写真:https://kaboompics.com//Pexels

2頭目の背中に手を入れている途中で、さっき終えた1頭目が廊下から戻ってきて、乾いた背中を2頭目の腰にこすりつけました。そこから10秒ほどで、1頭目の背中は湿った状態に戻りました。多頭で暮らす家のケアが時間どおりに終わらないのは、1頭あたりの手際ではなく、この戻ってくる10秒が予定に入っていないからです。多頭のケアの順番を決めているのは、待っている子の側ではなく、終わった子が戻る場所の側です。戻り先が1つしかない家では、何頭いても、同時に進められるのは1頭までになります。

2頭目の途中で、1頭目が戻ってくる|多頭のケアの順番が崩れる背景

多頭のケアで最初に崩れるのは、2頭目の途中です。1頭目を終えて部屋から出し、2頭目にとりかかる。この時点までは、どの家でも予定どおりに進みます。崩れるのは、1頭目が戻ってきたときです。戻ってくる理由はだいたい決まっていて、においを確かめに来ています。同じ家で暮らしている子どうしは、においの並びで互いを覚えています。1頭だけそこが変わると、確かめに来ます。

猫がいる家では、これがもっと早く起きます。犬は呼べば止まりますが、猫は呼んでも来る順番を変えません。2頭目の作業中に、1頭目と3頭目が同じ部屋に入ってくる、という形が多頭の現場でいちばん多い崩れ方です。そこで手を止めて出しに行くと、2頭目は濡れたまま待つことになります。待っているあいだに冷えるので、そのぶん終わりが遠くなります。

2頭目の途中で起きることと、そこで失われるもの
起きることその場で失われるもの巻き戻る量
1頭目が濡れた子に体をこすりつける乾かした背中の毛が湿りに戻る乾かしの3〜4分ぶん
1頭目が2頭目のにおいを持ち帰る落としたにおいが戻るその日の仕上がりの見分けがつかなくなる
3頭目が部屋に入ってきて足元にいる手を止めて出しに行く時間1回につき1〜2分
2頭目が濡れたまま待つ体温と、その子の集中残りの工程が1.5倍に伸びる
どの子が終わったか分からなくなる順番そのもの1頭を二度洗うことになる

表のいちばん下が、多頭でいちばん起きてほしくないことです。3頭以上になると、終わった子と終わっていない子が同じ部屋に混ざった時点で、人の側の記憶では追えなくなります。毛の乾き具合で見分けようとしても、こすりつけられた子は湿っているので、見分けの手がかりのほうが先に消えます。多頭のケアの順番は、覚えていられるかどうかではなく、物理的に分けられているかどうかで決まります。

背景として、もう1つあります。多頭で暮らす家では、1頭あたりにかけられる時間が最初から短く設定されています。3頭なら1頭15分でも45分です。この設定が、崩れたときの余白を残しません。1頭で暮らす家なら10分の遅れは飲み込めますが、3頭では最後の子にそのまま積み上がります。

濡れている子と乾いた子が同じ部屋にいる|多頭のケアで順番を決める理由

順番を決める必要があるのは、頭数が多いからではなく、濡れている状態と乾いている状態が同じ家の中に同時に存在するからです。1頭で暮らしていれば、この2つの状態が重なる時間はありません。始めたら濡れていて、終われば乾いています。多頭では、1頭目が乾いているあいだに2頭目が濡れています。この重なりが、順番という言葉が出てくる理由です。

4つめが、多頭でいちばん見落とされます。人の側は「もう一度乾かせばいい」と考えますが、その子の側では2回目です。1回目に耐えた分の集中は、もう残っていません。やり直しは時間が2倍になる話ではなく、その子が嫌がる度合いが上がる話です。次の回に台へ乗るのを渋る子は、前の回にやり直しがあった子が多いです。

Point順番を性格で決めると、頭数が増えた年に合わなくなる

おとなしい子から、嫌がる子は最後に。多頭のケアの順番として、これがいちばん広く言われている決め方です。2頭までは、これで回ります。3頭になった年に合わなくなるのは、性格の順番が、戻り先の数とまったく関係していないからです。おとなしい子を先に終えても、その子が戻る部屋がなければ、2頭目の途中で戻ってきます。性格で決めるのは、戻り先が頭数ぶんそろっている家でだけ成り立つ決め方です。

もう1つの理由は、記録の側にあります。多頭では、どの子に何をしたかを人が覚えていられません。順番が固定されていれば、順番そのものが記録になります。3番目の子まで終わった、と言えれば、何をしたかを思い出さなくて済みます。順番を毎回変えていると、この記録の働きが消えます。多頭のケアで順番を固定する理由の半分は、この覚えなくて済む形をつくるためです。

待つ場所ではなく、戻る場所から決める|多頭のケアの順番の考え方

決め方の順序を入れ替えます。誰から始めるかを先に決めるのをやめて、終わった子をどこに入れるかを先に決めます。戻り先というのは、扉が閉まる場所のことです。部屋でも、サークルでも、キャリーでも構いません。条件は1つだけで、そこにいる子が自分で出てこられないことです。出てこられる場所は、戻り先には数えません。

戻り先の数から、その日の多頭のケアの順番が決まる
戻り先の数同時に進められる頭数順番の考え方
1つ1頭最後に洗う子を先に決める。その子だけ戻り先が要らない
2つ2頭3頭目を最後に置き、残り2頭を先に片づける
頭数ぶんある全部性格や嫌がる順で決めてよい
0(扉が閉まらない)順番では回らない日を分ける。1日1頭にする

この表の1行めが、多くの家の実情です。戻り先が1つなら、順番の考え方は「最後に洗う子を先に決める」になります。最後の子だけは、終わったあとに誰も残っていないので戻り先が要りません。だから、いちばん戻り先に入れづらい子を最後に置きます。扉の中に入ると鳴き続ける子、猫のように閉じられるのを嫌がる子。その子を最後にすると、戻り先1つで全部回ります。

  1. 扉が閉まる場所を家の中で数える

    浴室、寝室、玄関のたたき、サークル。数えるのは部屋の数ではなく、閉まる扉の数です。ここが多頭のケアの上限を決めています。

  2. 戻り先に入れづらい子を、最後の枠に置く

    閉じられるのを嫌がる子です。多頭で猫がいる家なら、猫が最後になることが多くなります。この1頭を決めると、残りの並びは自動的に決まります。

  3. 戻り先に入れる前に、乾きを確認する

    閉めた中で湿ったまま寝ると、翌日に毛がもつれます。根元に指を入れて、冷たさが残っていないかを見てから閉めます。ここを飛ばすと、巻き戻りが翌日に出ます。

  4. 終わった子の名前を、その場で紙に書く

    3頭以上では、見分けで追わずに書きます。名前と、終わった時刻。多頭のケアで二度洗いが起きるのは、この1行がないときです。

この考え方に切り替えると、順番を毎回考え直す必要がなくなります。戻り先の数は家の作りで決まっていて、そこが変わることはめったにありません。頭数が増えた年だけ、最後の枠に置く子をもう一度選び直せば足ります。多頭のケアの順番は、その子たちの性格ではなく、家の側の構造から出てくるものです。

3頭目の1回が短くなるまで|多頭のケアの順番に出る変化

戻り先を決めたうえで、次に効くのは1頭あたりの工程数です。多頭では、1頭あたりのばらつきが最後の子に全部積み上がります。1頭目が5分延びると、3頭目は15分遅れて始まります。だから縮めたいのは平均ではなく、読めない工程の数です。工程が少ないほど、1頭にかかる時間が読めるようになります。

洗う工程で読めなくなるのは、泡を地肌まで届かせる段です。かき分けて擦る時間は、毛の量と、その子がじっとしている時間で変わります。mofuwa 入浴シャンプーは湯に溶かして使う形なので、この段そのものが入りません。湯が洗浄液になるため、浸かっているあいだに全身が浸り、擦ってから届かせるより、むらが出にくくなります。ごしごしする工程がなく、すすぎも軽く済むので、1頭にかかる時間の幅が狭くなります。多頭のケアで順番が守れるようになるのは、この幅が狭くなったときです。

日常のぶんは、桶に溶かして足先だけという形が多頭に合います。散歩から帰った犬2頭を、玄関の桶で1頭ずつ足だけ通す。戻り先は玄関の外側と内側で足りるので、部屋の扉を1つも使いません。洗う日と洗う日のあいだにこれを入れておくと、洗う日に3頭ぶん残っている用事が減ります。入浴シャンプーは大容量なので、頭数で割ったときの持ちを気にせず毎日の動線に置けます。保湿成分が入っていて仕上げに重ねるものが要らないぶん、1頭あたりの工程がもう1つ減ります。

変化は3頭目に出ます。順番の考え方を戻り先に切り替えて、工程を1つ減らす。この2つをやった家では、3頭目の1回がいちばん短くなります。今まで3頭目がいちばん長かったのは、その子が手ごわかったからではなく、そこに全部の遅れが積み上がっていたからです。多頭のケアは、最後の子の時間で測ると変化が見えます。平均で測ると、何を変えたのかが出てきません。

Caution同じ子だけ、終わったあとに長く伏せているとき

3頭のうち同じ1頭だけ、終わったあとに同じ場所で長く伏せている/その子だけ1回にかかる時間が月ごとに伸びている/戻り先に入れたあと、水を飲みに出てくるのが遅くなった/頭数は変わっていないのに、全体の所要時間が先月より20分以上伸びた。これは順番の組み替えで追いつく変化ではありません。1頭ずつの所要時間を書いた紙と、終わったあと伏せていた時間を持って、動物病院で診察の枠を取ってください。多頭では他の子と比べられるので、変化に気づくのがむしろ早くなります。その比較を伝えると、飼い主への説明を待たずに話が進みます。

家で続けるのは、戻り先の数と、最後の枠に置く子の名前を紙に書いておくことだけです。この2行があれば、順番はその日の気分で動きません。多頭のケアは頭数ぶんの手際を身につける話ではなく、家の扉の数に合わせて並びを1回決めておく話です。決めた並びは、頭数が変わるまでそのまま使えます。

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本記事は日常のお手入れに関する情報提供を目的としており、疾病の診断・治療・予防を目的とするものではありません。皮膚や体調に異常が見られる場合は、自己判断せず動物病院にご相談ください。