C05犬種・猫種別ケア

ペキニーズはなぜ毛玉が起きやすいのか。長毛から考える

公開日 2024年3月5日|文=mofuwa編集部

明るい部屋の淡い色の床に、長い毛の小型犬が立っている
毛玉のできる場所は、その子が一日にどう歩いたかの記録になっています。

ペキニーズの毛玉は、たいてい体の左右の、同じ高さに出ます。前肢のうしろ、脇の下から肋の外側にかけて。昨日ほどいたはずの場所に、翌朝また同じ形で戻っている。片側だけならぶつけたのかと思えますが、左右そろっているとそうも言えません。この規則正しさには理由があります。ペキニーズは、前肢が弓なりに張り出していて、歩くと体が左右に揺れる犬です。一歩ごとに、体の横の毛が、決まった場所をこすり続けている。毛玉は手入れが足りなかった跡ではなく、その子が一日をどう歩いたかの記録です。ここでは、毛玉ができる場所からその子の歩き方をさかのぼって、変えられるところと変えられないところを分けていきます。

体の左右の同じ高さにだけ毛玉ができる|ペキニーズで最初に気づく変化

ブラッシングを続けていると、ある時期から、手が止まる場所が決まってきます。首まわりのたてがみでも、尾の飾り毛でもなく、前肢のうしろ。脇の下から後ろへ、肋の外側にかけての帯のようなところです。そこで指が止まり、反対側へ回ると、ほとんど同じ高さに同じものがあります。ペキニーズの毛玉に気づくきっかけとして、この左右対称がいちばん多いと思います。

最初は偶然だと考えます。寝る向きの癖かもしれない、ハーネスのベルトが当たっているのかもしれない。それで寝床を替えてみる、ハーネスを外してみる。それでも、同じ場所に戻ってきます。しかも、ほどいた翌日にはもう指が引っかかる。他の場所はきれいなままなのに、そこだけが早い。

手ざわりも独特です。毛先がまとまって束になっているのではなく、根元の少し上のあたりで、毛が横向きに寝たまま絡んでいます。指の腹で押すと、平たい板のような感触が返ってきます。つまみ上げようとしても、上へは持ち上がらず、面のまま皮膚ごと動きます。縦にできた毛玉ではなく、横に押されてできた毛玉です。

ペキニーズは長い被毛を持つ犬で、首まわりの毛はとくに豊かです。だから毛玉の話をすると、まず首まわりが疑われます。けれど実際に手が止まるのは、毛の量がいちばん多い場所ではありません。量ではなく、こすれている場所に出ている。ここに気づくと、毛玉の見方が変わります。ブラッシングの回数を増やす方向ではなく、なぜそこがこすれているのかを見る方向です。

毛玉を「手入れが足りなかった結果」として見ていると、答えは「もっと丁寧に、もっと頻繁に」しかありません。実際、そこで毎日30分ブラシを入れるようになった飼い主さんは多いはずです。それでも同じ場所に戻るとき、原因はブラッシングの側にはありません。ペキニーズの毛玉は、静かにしているあいだにできるのではなく、歩いているあいだにできています。

弓なりの前肢と、左右に揺れる歩き|ペキニーズの毛玉の背景にあるもの

ペキニーズの体を正面から見ると、前肢がまっすぐ下りていません。肘のあたりから外へ張り出して、そこから内へ回り込むように、弓なりに曲がっています。胸は広く、深く、前のほうに重さがあります。後ろは前ほど幅がなく、軽い。前が重くて広く、後ろが軽くて狭い、という配分になっています。

この作りは、中国の宮廷で愛されてきた歴史の中で残ってきたものです。長い距離を速く走るための脚ではなく、獅子を思わせる姿を正面から見せるための作りに近い。結果として、ペキニーズの歩き方は、他の犬とはっきり違うものになりました。前肢が体の真下ではなく外側を通るので、一歩ごとに重心が左右へ振られます。体全体が、ゆっくりと左右に揺れながら進みます。

この揺れの中で、体の横では何が起きているか。前肢が前へ出るとき、肘は体から少し離れます。前肢が後ろへ送られるとき、肘は体の側面へ寄って、そこを通過します。肘が通る道に、体側の長い毛が垂れています。一歩ごとに、肘の外側が同じ帯の毛を後ろへなでていく。それが片側だけでなく、左右で同時に起きています。

一歩の距離は短くても、回数は多い。部屋の中を歩き、玄関まで行き、水を飲みに行き、また寝床に戻る。一日に何百歩、何千歩という単位で、同じ帯の毛が同じ向きになでられ続けます。なでられた毛は、そのたびに後ろへ、そして少し下へ倒れます。倒れたまま次の一歩が来るので、起き上がる時間がありません。

毛は倒れた状態で隣の毛と重なります。重なった毛が横向きのまま動かないと、根元の側で編まれたような形になります。ここに、その場所の皮脂と、床から拾った細かいほこりが入ります。これがペキニーズの毛玉の作られ方です。上から押されてできた塊ではなく、横向きの力で送られ続けた結果できた、平たい面です。手ざわりが板のようになるのは、そのためです。

歩くたびに毛玉が作られていく経路 弓なりの前肢が体を左右に揺らし、肘が体側の同じ帯を後ろへなでます。倒れた毛が起き上がる前に次の一歩が来ます。 弓の前肢 外を通る 横の揺れ 一歩ごと 平たい面 起きない 肘が体側をなでる 倒れたまま重なる できてから手を入れる場合 面が皮膚ごと動く 毛先からは緩まない こすれる条件を先に見る場合 毛が起きる時間ができる 同じ場所が戻りにくい
経路の途中に、毛が起き上がる時間がありません。だから入口の側、こすれる条件のほうへ手を入れます。

ペキニーズと暮らしていて、この歩き方を不便に思ったことはないはずです。ゆっくりと、体を揺らしながら部屋を横切っていく姿は、この犬種の見どころのひとつです。問題があるのは歩き方ではなく、その道に長い毛が垂れているという重なりのほうです。短毛の犬なら、同じ歩き方をしても毛玉にはなりません。長毛の犬でも、前肢が体の真下を通るなら、体側はこすられません。ペキニーズは、その2つが同じ体に乗っています。

だから、毛玉ができる場所は、その子の歩き方に沿って少しずつ違います。歩幅が広い子は肘が後ろまで届くので、帯が後ろへ長く伸びます。体を大きく揺らす子は、帯が上下に広くなります。うちの子の毛玉がどこにあるかを見れば、その子がどう歩いているかが読めます。左右で場所がずれているなら、揺れ方も左右で違うということです。

こすれる相手のほうを入れ替える|ペキニーズの毛玉への考え方

歩き方は変えられません。変えようとすることでもありません。変えられるのは、こすれる相手と、こすれたあとの時間の使い方の2つです。毛玉が「一日のあいだに作られている」なら、手を入れる場所も一日の中にあります。ここからは、その2つを順に見ていきます。

まず、こすれる相手です。肘と毛が直接こすれるほかに、体側の毛には毎日いくつものものが当たっています。ハーネスのベルト、服の脇の縫い目、抱き上げるときの腕、寝床の縁、ソファとの段差。そのどれもが、歩くたびのこすれと同じ帯を通っています。歩きだけなら一日数千回でも、そこにベルトが加わると、倒れた毛はさらに起きられなくなります。

だから、入れ替えるのは道具のほうです。ハーネスなら、ベルトが脇の下を通らない型に替える。服なら、脇の縫い目が外へ来る作りにする。1つずつ替えて、2週間おいて、その帯の手ざわりがどう変わったかを見てください。まとめて全部替えると、何が効いたのか分からなくなります。ペキニーズの毛玉は場所が動かないので、比べる条件としては読みやすいほうです。

次に、こすれたあとの時間です。毛が倒れたまま起き上がらないのが原因なら、起き上がる機会を一日のどこかに作れば、条件がひとつ緩みます。いちばん動いた直後、たとえば散歩から帰ったあとや、家の中を歩き回ったあとに、その帯だけを一度起こす。全身をとかす必要はありません。体側の帯を、下から上へ、毛の流れに逆らって手のひらでなで上げるだけです。10秒で終わります。

手のひらで起こしたあとに、粗い櫛を根元まで一度だけ通します。順番が逆になると、倒れた毛を横向きのまま送ることになるので、起こしてから通す、という向きだけは変えないでください。櫛を持つ前に手のひら、と決めてしまうと迷いません。この帯だけは、ほかの場所より短い間隔で手を入れる価値があります。

毛の乾き方も、条件のひとつです。体側の毛は、体と床のあいだにある時間が長く、風が通りにくい。洗ったあとにここが最後まで湿っていると、倒れた毛が湿ったまま重なります。乾かすときは、体側の毛を手で持ち上げて、根元に風の道を作ってください。うるおいを残したい場所ではありますが、湿ったまま横向きに寝ているのは別の話です。乾いてから、もう一度なで上げておきます。

冬に毛玉が増えたように感じるときは、静電気を疑ってください。空気が乾くと毛先どうしが寄りやすくなり、倒れた毛が離れにくくなります。この時期だけは、なで上げる回数を朝と夜の2回に増やす。道具も手順も変えず、回数だけを動かします。春になって空気が戻れば、回数も戻して構いません。換毛期には抜けた毛が帯の中に留まるので、そこも同じ考え方で回数を足します。

なで上げを毎日の10秒に収めるために、mofuwa のグルーミングスプレーを布に含ませて使います。体側の帯を下から上へ、毛の流れに逆らって拭き上げてください。わずかに湿っているだけで、寝ていた毛が手の動きについてきて、そのあとの櫛が根元まで一度で入ります。この帯は犬が自分の口で届く場所です。清涼飲料水の規格基準をクリアした水でできているので、量を控えずに端から端まで拭けます。グルーミングスプレーはブラッシングスプレーでもあるので、空気が乾いて毛先どうしが寄る時期も、同じ手順のまま静電気の起きにくい状態で櫛を通せます。できあがった平たい面に直接吹きかけるのではなく、面の外周の毛からそろえていってください。

Caution平たい面を、上へ引っぱらないでください

体側の毛玉は皮膚ごと動きます。つまみ上げて引くと、ほどけるのではなく、生えている毛と皮膚が一緒に持ち上がります。ほどくときは、面の外周から。端の毛を数本ずつ外して、中心を最後に残してください。端が2〜3本ほぐれたら、その日の分はそれで足りています。今日中に全部きれいにしてしまいましょうという進め方は、この場所では続きません。体をひねる、声が出るという反応があれば、その帯からは手を離してください。硬く締まった面は、無理に触らずトリマーに相談してください。

毛玉が新しい場所に出はじめたとき|ペキニーズと暮らした経験だけで決めない

ここまでは、歩き方で説明のつく毛玉の話でした。場所が決まっていて、左右対称で、一日のあいだに作られる。だから逆に、この条件から外れた出方をしたときは、歩き方の話として片づけないでください。ペキニーズと何年も暮らしていると、毛玉は毛玉として見慣れてしまいます。その見慣れが、いちばん見落としを作ります。

最後の項目は、とくに大事です。ペキニーズの毛玉は歩き方が作っているので、歩き方が変われば毛玉の場所も動きます。「最近この辺に出なくなった」は、良い変化とはかぎりません。歩幅が狭くなった、段差を避けるようになった、歩く時間が減った。そのどれかが先にあって、毛玉の場所が動いているだけかもしれません。毛の話ではなく、動きの話として見てください。

Caution毛ではなく、下の皮膚を見せたほうがいいとき

地肌が赤い、じくじくしている、においがある、触ると痛がる、同じ場所をなめ続けている、毛が根元から抜けて地肌が広く見えている、歩き方や歩幅が変わった、元気や食欲が落ちている。ひとつでも見つかったら、その帯が左右のどちらの高さにあるか、気づいてから何日たったかを控えて、動物病院で毛の下を診てもらってください。ペキニーズの体側は長い毛に覆われているので、外から見えているのは表面の毛だけです。なで上げと櫛は、その間もこすれる条件を戻さないために続けてください。

相談やトリミングの前には、毛玉のある場所を体の左右で図にしたもの、いつからか、その帯に当たっているものの3つを控えておいてください。当たっているものというのは、ハーネス、服、寝床の縁、いつも抱き上げる腕の位置のことです。この3つがあると、歩き方で説明のつく毛玉なのかどうかを、その場で切り分けてもらえます。前の晩に無理をしてほどくと、もとの状態が分からなくなります。

ペキニーズが体を揺らして歩くこと自体は、変えられません。それはこの犬種がずっと持ってきた作りで、正面から見たときの姿を作っているものでもあります。減らせるのはこすれる回数ではなく、こすれたあとに毛が倒れたままでいる時間のほうです。毛玉のある場所を見て、その子の一日をさかのぼる。当たっているものを1つずつ入れ替えて、動いたあとにその帯だけ起こす。ペキニーズの毛玉で手が届くのは、そこです。

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本記事は日常のお手入れに関する情報提供を目的としており、疾病の診断・治療・予防を目的とするものではありません。皮膚や体調に異常が見られる場合は、自己判断せず動物病院にご相談ください。