C04悩み解決
シニア期のシャンプー嫌い|若い頃と同じケアでは追いつかない
浴室のドアを開けたところで、その子の前足が止まりました。去年までは、シャンプーの日でも自分から入っていった場所です。呼んでも入らない。抱き上げれば入るけれど、下ろした瞬間に体が固まって、四本足が床に貼りついたようになる。シニア期に入ってからシャンプーを嫌がるようになった、という相談で、よく聞くのがこの形です。若い頃と同じ洗い方を、より丁寧にやり直しても追いつきません。嫌がる場面そのものが、洗っている最中から、浴室に入る前へ前倒しになっているからです。この記事は、入口の一歩から組み直す話です。
ドアの手前で足が止まる、という変化
若い頃、シャンプーを嫌がる子は、たいてい水がかかった瞬間に暴れました。シャワーを出すまでは平気で、濡れはじめると体をひねる。飼い主のほうも、そこさえ乗り切れば最後まで行けると分かっていました。シニア期に入ると、この形が崩れます。濡れてからは、むしろ以前より静かです。じっとしている。ところが、そこへ行くまでが進まない。廊下は歩く。脱衣所までは来る。浴室のドアの手前で、足が止まります。
止まり方も、若い頃とは違います。逃げません。後ずさりもしません。その場に立ったまま動かない、という止まり方です。首だけがこちらを向いていて、体は前を向いたまま。もう一度呼ぶと、前足を一度上げて、そのまま下ろす。入ろうとはしているのに、踏み出す先が決まらない、という動きです。この違いは、見ている飼い主にはうまく言葉にできません。だから「シャンプーを嫌がるようになった」とまとめられます。
そのまとめ方から、シニア期のシャンプーの話は少しずつずれていきます。年をとって頑固になった、我慢がきかなくなった、甘えるようになった。どれも人の側の説明で、その子の側で何が変わったかは入っていません。嫌がっている場面が、去年までと同じ場所にあるのかどうか。まずここを確かめてください。
| 若い頃 | シニア期 | |
|---|---|---|
| 嫌がりはじめる場所 | シャワーの水がかかった瞬間 | 浴室のドアの手前、入る前 |
| 嫌がり方 | 体をひねる、逃げようとする | その場で止まる。前足を上げて、また下ろす |
| 洗っている最中 | ずっと落ち着かない | 入ってしまえば、以前より静か |
| こちらが抱いて入れたとき | 下ろすと動き回る | 下ろした場所から動かない |
| 終わったあと | 走り回って体をこすりつける | しばらくその場にいる |
| 次の回 | とくに変わらない | 脱衣所の手前から歩みが遅くなる |
この表で見てほしいのは、上の2行と3行目の関係です。入る前がいちばん重く、入ってからは軽い。この順番になっているなら、シャンプーそのものを嫌がっているという説明は合いません。水が嫌いな子なら、濡れてからのほうが重くなるはずです。シニア期のシャンプー嫌いには、この逆転が起きていることがあります。
猫の場合、浴室まで連れて行くこと自体が一仕事なので気づきにくいのですが、キャリーから出したあと、浴室の床に足をつけるまでの数秒に同じことが起きます。抱いているあいだは静かで、床に下ろそうとすると四肢を突っぱねる。これも、洗われることへの抵抗ではなく、床に降りることへの抵抗として見てください。
浴室の入口で止まる理由は、床の見え方にある
年齢が上がると、見え方が変わる子がいます。視力そのものが落ちているとは限りません。ものの形は分かるのに、光の反射に弱くなる、明るさの差に目が追いつくのが遅くなる、といった変化のほうが先に出ることがあります。ここで断定はできません。ただ、浴室の入口という場所は、その変化がいちばん出やすい条件がそろっています。
浴室の床を思い浮かべてください。天井に照明があり、床は濡れていて、壁は白い。濡れた床は、光を返して白く光ります。人の目には「濡れているな」としか映りませんが、その白さの中では、床のどこが平らでどこが下がっているのかが読めません。とくに脱衣所と浴室のあいだの段差は、乾いた床と濡れた床の境目でもあります。境目に線が見えなくなると、踏み出す先の高さが決められません。
その子が前足を一度上げて、また下ろした。あの動きは、そういうことです。上げたものの、下ろす先がどこにあるか分からないので戻した。嫌がっているのは水ではなく、入る前の一歩です。若い頃は、目で見えていなくても勢いで越えられました。踏み外しても、後ろ足で立て直せたからです。シニア期になると、その立て直しがきかなくなるぶん、慎重になります。慎重さは、こちらから見ると「嫌がっている」に見えます。
- 濡れた床が白く光る:面の高さも、傾きも、そこから読み取れなくなります
- 段差の縁が消える:乾いた床と濡れた床の境目に、色の差がないと線として見えません
- 照明が真上にある:真下に影ができないので、段差の手前に立つと足元が暗くなります
- 過去に滑った記憶が残っている:一度でも足を取られていると、その場所は慎重に扱われます
- 浴室だけ音が響く:狭くて硬い面に囲まれているので、シャワーの音も足音も大きく返ってきます
5つのうち、最後の音だけは若い頃から変わっていません。むしろ年齢とともに聞こえにくくなる子もいます。それでも入口で止まるようになったのなら、音が理由として重くなったとは考えにくいことになります。順番として、まず床の見え方のほうを疑ってください。
確かめ方があります。床が乾いているうちに、同じドアを開けて呼んでみてください。湯を張る前、シャワーを出す前、床にまだ水がない状態です。ここで普通に入ってくるなら、ドアや浴室そのものが理由ではありません。濡れているときだけ止まるのなら、床の状態が変わったことに反応しています。この一回のテストで、シャンプーを嫌がる理由の見当がだいぶ絞れます。
これまでの経験が届かない、入口までの3歩
厄介なのは、飼い主の手のほうが先に手順を覚えていることです。湯を張って、シャワーの温度を合わせて、その子を呼んで、入れて、洗う。10年続けていれば、考えなくても順番どおりに体が動きます。その経験の中で、浴室の入口は「通過点」として扱われています。止まる場所として想定されていないので、そこに手が用意されていません。
だから、経験のある飼い主ほど、止まったときに洗い方のほうを直そうとします。お湯の温度を下げる、シャワーを弱くする、話しかけながら洗う。どれも洗っている最中の工夫です。直す場所は、まだそこまで届いていません。やり直すのは、入る前の3歩です。
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1歩目|足がかりを、乾いた床のうちに置く
滑らないマットを、脱衣所から浴室へ向かって2枚並べます。1枚は段差の手前、もう1枚は段差を越えた先です。並べるのは、床を濡らす前。湯を張ってから敷くと、マット自体が濡れて動くようになり、かえって危なくなります。表面が乾いていて、押しても動かないことが条件です。
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2歩目|段差の境目に、色の差をつくる
段差の縁に、床と違う色のタオルを1枚かけます。濃い色の床なら白いタオル、白い床なら濃い色。見せたいのは高さではなく、線です。ここから先が下がっている、という線が1本あるだけで、前足を下ろす先が決まります。これも濡らす前に置いてください。
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3歩目|床が乾いているうちに、入って待つ
湯を張るのも、シャワーを出すのも、その子が浴室に入ってからにします。入る一歩と、濡れるという出来事を、時間の上で離します。入って30秒、何も起きない時間をつくってください。おやつを一粒置いてもいいですし、床のにおいを嗅がせるだけでも構いません。この30秒があるだけで、次の回の入口が軽くなります。
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抱いて入れるかどうかを、先に決めておく
体重が10キロを超えるなら、抱えて入るのは飼い主の腰にも、その子のこしにも負担がかかります。抱くと決めたなら、下ろす場所をあらかじめ決めておいてください。マットの上のどこに、どちら向きで下ろすか。決めずに抱くと、下ろす瞬間にその子が足を突っぱねて、いちばん滑りやすい姿勢になります。
止まっている足を、リードや首輪で前へ引く。後ろから体を押す。どちらも一度で入りますが、踏み出す先が見えないまま体だけ前へ出る、という経験になります。次の回は、脱衣所の手前から歩みが遅くなります。入口で止まったら、そこで一度やめて構いません。その日は洗わない、という判断が使えるのがシニア期です。
3歩を作り直したら、これまでの手順を紙に2列で書き出してみてください。左に「入るまで」、右に「入ってから」。10年分の経験のほとんどは右側に入っているはずです。左側がほとんど空白なら、それがシニア期に入って追いつかなくなった理由です。書き出したうえで、左に3行を足す。やり直すのは、それだけです。
水を出さない日をはさむという考え方
入口が軽くなっても、シャンプーの日そのものが重いことは変わりません。シニア期は、洗って、すすいで、水気を取るまでの一連が、体にとって長い時間になります。ここで効いてくるのが、回数を減らすのではなく、水を出さない日をあいだにはさむという考え方です。間隔を空けるだけだと、次の1回がさらに特別な日になります。特別な日は、入口で止まりやすくなります。
はさむというのは、水を出さない日にも浴室を使うということです。水は出しません。ドアを開けて、マットを敷いて、入って、30秒いて、出る。それだけの日をつくります。週に1回でも構いません。その子にとって、浴室が「必ず濡れる場所」ではなくなります。入口の一歩を練習しているというより、入口を特別な場所から外している、という言い方のほうが近いかもしれません。
- 水を出さない日に、浴室に入って出るだけ:30秒で十分です。長くすると、その子が次を待つようになります
- タオルで押さえるだけの日をつくる:足先とお尻まわりを、湿らせたタオルで押さえて終わりにします。浴室でなくても構いません
- 洗う範囲を分ける:今日は足だけ、次は下半身だけ。全身を1回で終わらせる必要はありません
- 音のある日とない日を分ける:シャワーの音がしない日があると、音そのものへの反応が強くなりません
- シャンプーの日は、朝いちばんに置く:一日の後半になるほど、立っていられる時間は短くなります
洗ったあとに水気を取って乾かす工程にも、同じような前倒しが起きることがあります。ただしそちらは、姿勢と時間の話になるので、この記事とは分けて考えてください。入口の話と、乾かす工程の話を一度に直そうとすると、どちらも中途半端になります。まず入口。そこが軽くなってから、次の工程に進んでください。
洗う日そのものにも、手を入れられるところがあります。体をまるごと洗うところは、その子が自分では届きません。毛づくろいで届くのは表面までで、シニア期になると、その毛づくろいの回数そのものが減っていきます。mofuwa 入浴シャンプーは、お湯に溶かして浸かるだけで洗うつくりで、泡を立ててかき分ける工程がありません。シニア期に体にこたえるのは、洗っている時間そのものより、立って耐えている時間のほうです。こする工程がなくなるぶん、浴室の床に立っている時間が短くなります。すすぎも軽く済むので、入口の3歩と同じ数え方で、入ったあとの分数も減らせます。全身が長い日は、桶に張って足先とお尻まわりだけ、という分け方もできます。
最後にひとつ。入口で止まるのが浴室だけとは限りません。平らな床でつまずくようになった、段差の手前で立ち止まる時間が長くなった、いつも同じ側の壁に沿って歩く、目が白っぽく見える、明るい場所でまぶしそうにする。これらが出ているなら、シャンプーを嫌がるという話ではありません。年齢のせいにせず、動物病院にご相談ください。家で組み直せるのは入口までで、その先は診てもらう領域です。
Product
mofuwa 入浴シャンプー
400ml / 3,410円(税込)
浸かるだけで洗える入浴タイプ。「泡立て・ごしごし・すすぎ」の3手間を省けるので、高齢のペット・大型犬・多頭飼いのご家庭に向いています。
商品ページを見る本記事は日常のお手入れに関する情報提供を目的としており、疾病の診断・治療・予防を目的とするものではありません。皮膚や体調に異常が見られる場合は、自己判断せず動物病院にご相談ください。
