C05犬種・猫種別ケア
狆はなぜ毛のもつれが起きやすいのか。シルキーコートから考える
狆の腰の少し前、背中の真ん中でコームが止まりました。そこだけ毛が寄っていて、指で押すと弾力のある面になっています。ほどこうとして毛を左右に分けたとき、もつれの正体がやっと分かりました。寄っているのは、背中から生えた毛だけではありません。背に巻き上がった尾から前へ流れてきた長い飾り毛が、背中の毛の上に何本も乗っています。生えている場所が違う2種類の毛が、同じ一枚の面の上で重なっている。狆と暮らしていて、背中の同じあたりばかりが固まるという話をよく聞きますが、そこは体の中で唯一、上下2階建てになっている場所です。この記事は、1か所の毛の話ではなく、2か所の毛が出会う場所の話として書きます。
尾の飾り毛が背中の上に乗っている|狆のもつれが始まる場所の背景
狆は、日本の座敷で人のそばにいることを仕事にしてきた小型犬です。被毛は細く、まっすぐで、絹のような手ざわりのシルキーコート。1本1本が軽いので、動くたびに毛が空気を含んで揺れます。この揺れる毛が、体の一か所だけ二重に重なっている場所があります。背中です。
狆の尾は、背に向かって巻き上がるように立ちます。その尾から、長い飾り毛が扇のように広がって、背中の上へ流れ込みます。背中の毛の上に、尾の毛がもう一枚かぶさっている状態です。横から見ると、腰から背の中ほどにかけて、毛が二層になっているのが分かります。首まわりのフリルや耳の飾り毛も長いのですが、そこは1か所の毛だけで完結しています。
この二層になった面が、狆のもつれで最初に固まる場所です。腰の少し前、背骨の左右どちらかに寄ったあたり。コームが止まる位置を思い出してみると、多くの子で同じあたりに集まります。毛の量が特別に多い場所でも、皮脂の出やすい場所でもありません。ただ、生えている場所の違う毛が出会っている、というだけの理由でそこになります。
背景をもう少し具体的にすると、3つの条件が同じ面で重なっています。1つめは、長さが違うこと。背中の毛は体に沿って寝る長さで、尾の飾り毛はその倍以上あります。2つめは、向きが違うこと。背中の毛は頭から尾へ流れ、尾の飾り毛は尾から頭のほうへ流れ込みます。3つめは、動き方が違うこと。背中の毛は体と一緒に動くだけですが、尾の飾り毛は尾が振れるたびに単独で左右へ動きます。
- 尾が背に巻き上がる:飾り毛が背中の面の上に乗ります
- 長さが2倍以上違う:短いほうの毛が、長いほうの毛の下に隠れます
- 流れる向きが逆になる:出会う場所で、毛先どうしが向かい合います
- 尾だけが独立して動く:同じ面の上を、1日に何度も往復します
- シルキーコートは細くて軽い:わずかな動きでも寄りやすくなります
- 表面はつやのまま:内側で寄り始めても、外からは分かりません
狆のもつれを毛質だけで説明すると、答えは「もっとこまめにとかす」になってしまいます。けれど、背中をどれだけ丁寧にとかしても、その上に乗っている尾の飾り毛は動きません。場所の話にすると、答えは「上下を分けてから通す」に変わります。回数を増やす前に、いま自分がどちらの層を触っているのかを見てください。
1か所ではなく、2か所の毛が出会う|狆のもつれがほどけない理由
ふつう、毛のもつれは1か所の毛が絡んでできます。同じ場所から生えた毛どうしが、こすれて向きを失い、寄り集まって芯になる。だから、その場所を毛先からゆるめていけば、順にほどけます。狆の背中で起きているのは、それとは1つ条件が多い状態です。
背中の面では、下に背中の毛があり、上に尾の飾り毛が乗っています。この2つは、根元がまったく別の場所にあります。片方の根元は背中の皮膚、もう片方の根元は尾の付け根です。ほどこうとして毛束を持ち上げると、その束の中に、引く方向の違う2種類の毛が混ざっていることになります。背中の毛は背中側に引かれ、尾の毛は尾の側に引かれる。どちらへ動かしても、もう一方が突っ張ります。
この突っ張りが、狆のもつれが途中で止まる理由です。手ごたえとしては「芯が硬い」と感じますが、実際に硬いのは毛ではなく、2つの根元に引かれている状態のほうです。力を強くすると、どちらか一方の根元、多くは背中の皮膚のほうが持ち上がります。狆は体が小さく皮膚も薄いので、ここで無理をすると、その日から背中を触らせてくれなくなることがあります。
毎日の動きも積み重なります。尾は歩くたび、振り向くたびに揺れます。そのつど、長い飾り毛が背中の同じ面の上を扇のように往復します。1日に何百回も、上の毛だけが下の毛の上をこすっていく。1回あたりの動きはごくわずかですが、シルキーコートは細くて軽いので、動いたぶんだけ確実に寄ります。乾いた季節は静電気で毛先どうしが引き合うので、寄る速さがさらに上がります。
もう一つ、気づきにくくしている条件があります。狆の被毛は細く、表面がなめらかなので、内側で毛が寄り始めても外側のつやは残ります。背中を上から見て整っていることは、その下の面が無事だという証明にはなりません。換毛期にまとまって毛が動く時期は、抜けた毛がこの二層のあいだに残るので、内と外の差がいちばん大きくなります。
つまり、狆のもつれは「気づいたときにはもうできている」種類のものです。ただ、できる場所はほぼ決まっています。腰の少し前、尾の飾り毛が届く範囲の端。ここを毎日30秒だけ見る、と決めてしまえば、探し回る必要はありません。場所が決まっているというのは、この犬種では扱いやすさのほうに入ります。
上の毛と下の毛を、別々に持ち上げる|狆のもつれをほどく考え方
手を入れる考え方は1つだけです。2つの根元を、同時に引かない。そのために、上に乗っている尾の飾り毛と、下にある背中の毛を、物理的に分けてから通します。道具を替える必要も、力を強くする必要もありません。順番だけの話です。
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尾の飾り毛を、手のひらで尾の側へ寄せて押さえる
指でつまむのではなく、手のひら全体で背中から持ち上げて、尾のほうへ倒します。これで、背中の面の上から尾の毛がいなくなります。片手でずっと押さえたままにするので、もう一方の手だけで作業できる姿勢をつくってください。狆は座らせたままのほうが、この形をとりやすい子が多くいます。
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背中の毛だけを、根元から毛先へ通す
上に何も乗っていない状態なので、引く向きは1つに戻ります。ここで手ごたえが軽くなるなら、突っ張っていたのは背中の毛ではなく上の層でした。まだ止まるなら、その芯は背中の毛だけでできています。毛先の側から少しずつゆるめてください。
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押さえていた手を離し、今度は尾の飾り毛だけを持ち上げる
背中の面から離して、空中に浮かせた状態で、毛先の側から通します。尾の飾り毛は、背中に触れていないあいだにやってしまうのがいちばん軽く進みます。根元の側から入れると、尾の付け根の皮膚を引くことになるので、必ず毛先からです。
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最後に、2つが出会う境目の面だけを見る
上下それぞれが通ったあとに、境目に残っているものがあれば、それが本当の意味での2階建てのもつれです。ここは1回でほどききらなくて構いません。指で毛束を左右にゆるめて、外れたぶんだけ外へ運び出します。残りは翌日に回してください。
| 止まった場所 | 何が起きているか | 次にやること |
|---|---|---|
| 上を押さえたら軽く通った | 突っ張っていたのは尾の飾り毛です | 毎日この順番に固定します |
| 上を押さえてもまだ止まる | 背中の毛だけでできた芯です | 毛先の側からゆるめます |
| 尾の毛を浮かせると軽い | 背中に触れているあいだだけ重かった | 尾の毛は必ず浮かせて通します |
| 境目だけが動かない | 2階建てのもつれです | 1日1回、外れたぶんだけ運び出します |
毎日のブラッシングでは、この順番をそのまま短くします。尾の毛を寄せて押さえる、背中を通す、尾の毛を浮かせて通す。この3手で、背中の二層は1分もかかりません。全身をやる日と、背中だけの日を分けてしまえば、続けやすくなります。狆は人のそばにいたがる子が多いので、膝の上に乗せたまま30秒だけ、という形でも回ります。
2つの根元に引かれている束を上から引くと、ほどけるより先に、背中の皮膚のほうが持ち上がります。狆は体が小さく、背中の皮膚も薄いので、痛みとして残りやすい場所です。嫌がる、体をひねる、声を出すというときは、その日はそこで止めてください。翌日にもう少しだけゆるめるほうが、結果として早く終わります。固まった芯は一気に引き抜いたほうが早いという進め方は、この場所では選ばないでください。
この場所は、放っておいた先に何が起きるかがはっきりしています。境目の束が固まるほど、2つの根元が同時に引かれている時間が長くなります。狆は体が小さく背中の皮膚も薄いので、その引かれ方は痛みとして残り、やがて背中を触らせてくれなくなります。毛玉になってから選べる手が、はさみだけになるのも同じ理由です。mofuwa の毛玉予防ジェルは、5つの成分で毛の表面を整えて、寄り始めた毛の滑りをそろえておくためのものです。香料・アルコール・界面活性剤など9つを入れていません。手のひらで伸ばしてから、尾の飾り毛を持ち上げた内側の面へ薄く。塗るのは、上を押さえて下を通す前です。2〜3日に1回で足ります。すでに固まっている境目には、塗り込むのではなく、もみこんでゆるめてから通してください。静電気で毛先が引き合う乾いた季節は、この一手が入っている日と入っていない日で、背中を通したときの手ごたえがいちばんはっきり分かれます。
尾を上げているあいだに進む、狆の毛の変化
上下を分けて通す形が回り始めると、変化は毎日の手ごたえに出ます。見るのは、もつれができたかどうかではなく、境目の面がどのくらい軽く通るかです。できてから探すより、通り具合を覚えておくほうが、狆では早く気づけます。
- 尾の毛を押さえたときの、背中の通りやすさ:ここが重くなったら、上の層が寄り始めています
- 境目に残る束の大きさ:毎日同じくらいなら、いまの回し方で釣り合っています
- 尾の飾り毛の毛先の広がり:扇の形が崩れて束になってきたら、毛先の側が絡んでいます
- 静電気で毛が寄る強さ:乾いた季節は、境目の進み方が速くなります
- 換毛期にまとまって毛が動く時期:抜けた毛が二層のあいだに残り、境目が重くなります
- 座っている時間と、尾が下りている時間:尾が下りているあいだは、飾り毛の当たる場所が変わります
季節でも動きます。空気が乾く時期は、細い毛どうしが静電気で引き合うので、境目の面が寄る速さが上がります。この時期だけは、背中を見る回数を1日1回から2回に増やすほうが釣り合います。湿度が戻れば、回数も戻して構いません。部屋の空気のほうを先に動かせるなら、そちらのほうが手数は少なくて済みます。
一方で、ここまでの説明で片づけないほうがいい変わり方もあります。境目ではない場所が固まる、上下を分けても同じ場所が短い間隔で戻ってくる、その場所を気にしてなめたりかいたりする。こうしたときは、2か所の毛が出会うという条件では説明がつきません。左右のどちらかだけに偏るときも、寝る向きやハーネスなど、毎日同じ場所に当たっているものを先に思い出してみてください。
地肌が赤い、じくじくしている、においがある、触ると痛がる、同じ場所をなめ続けている、毛が根元から抜けて地肌が広く見えている、元気や食欲が落ちている。こうしたものが1つでも見えたら、上下を分けて通す回数を足す前に、動物病院にご相談ください。狆はシルキーコートで表面のつやが残るぶん、内側の変化が外から見えません。背中が整って見えることは、そこまで確かめた証拠にはならない、と考えておいてください。
相談やトリミングの前には、固まっている場所、いつから止まるようになったか、上下を分けて通したときどちらが重かったかの3つをメモしてください。狆のもつれは場所がほぼ決まっているので、この3つがあると、被毛の作りで説明のつく範囲かどうかをその場で切り分けてもらえます。ほどききれなかった面は、無理に触らずそのまま連れて行ってください。前の晩に頑張って手を入れると、もとの状態が分からなくなります。
狆と暮らすうえで、尾が背に巻き上がることも、そこから長い飾り毛が背中へ流れることも変わりません。人のそばで過ごすためにそなえた姿で、その毛が揺れること自体は健やかな動きです。変えられるのは、2つの毛が出会っている面に、こちらがどのくらいの間隔で手を入れるかのほうです。上を押さえて下を通し、上を浮かせて上だけ通す。狆のもつれで動かせるのは、この順番ひとつです。
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本記事は日常のお手入れに関する情報提供を目的としており、疾病の診断・治療・予防を目的とするものではありません。皮膚や体調に異常が見られる場合は、自己判断せず動物病院にご相談ください。
