C09シーン別・暮らし

引越しの前後、保護犬・保護猫を迎えた人はどうしている?

公開日 2021年1月30日|文=mofuwa編集部

明るい部屋で、積まれた段ボールのそばに、クリーム色の猫が静かに座っている
段ボールが1つ置かれた時点で、その子にとっての部屋は、昨日までの部屋ではなくなっています。写真:calicodesign/Pixabay

引越しの前の晩、その子がいつも寝ている布を1枚、洗わずにそのまま段ボールへ入れてください。きれいにしてから運ぼうとすると、新しい部屋には、その子が知っているにおいが1つも無い状態が生まれます。犬も猫も、部屋を目より先ににおいで覚えます。壁ぎわ、床、家具の脚。自分でこすりつけたにおいと、その家に元からあるにおいが混ざって、「ここは自分がいていい場所だ」という地図になっています。保護犬・保護猫を迎えた家では、その地図がまだ薄い時期に引越しが重なることがあります。やっと覚えた場所が丸ごと入れ替わるので、その子から見れば、迎えられた日がもう一度来ることに近い。この記事では、引越しの前後に家でできることを、におい・場所・体に触る順番の3つに分けて並べます。以前その子がどう暮らしていたかは分からないので、そこは推測せず、いま目の前で確かめられることだけを材料にします。

迎えた日がもう一度来る|引越しが保護犬・保護猫の毎日をどう入れ替えるか

引越しで最初に動くのは、たいてい部屋の隅です。使っていない棚を空にして、段ボールを積む。その段ボールが1つ置かれた時点で、保護犬・保護猫にとっての部屋は、もう昨日までの部屋ではありません。人は「まだ何も変わっていない」と思っていますが、犬も猫も、床に見えている面積と、壁ぎわのにおいの並びで部屋を測っています。棚が1つ空いただけで、その並びは書き換わります。

迎えてから日が浅い子ほど、この地図はまだ薄いままです。どこで寝るか、どこなら人の手が届かないか、どの部屋なら足音が少ないか。その子が自分で試して、少しずつ埋めてきた情報が、引越しでは一度に無効になります。保護犬・保護猫を迎えた人が引越しで戸惑うのは、荷物の量ではなく、この積み上げが見えないところで消えることのほうです。

しかも、飼い主の側の条件も同時に変わります。荷造りをしている数週間は、手が空きません。時間が読めず、部屋にいる人の数も日によって違う。この時期に「毎日やることを増やす」方向の準備は、まず続きません。増やすのではなく、いつもの毎日から1つだけ残す。引越しの前後に家でできることは、実際にはその1つを決めるところから始まります。

犬と猫で少し差はあります。犬は人の動きに合わせて場所を移すので、飼い主がどの部屋にいるかで落ち着き先が変わります。猫は逆に、高い場所や狭い場所を自分で選んで、そこから部屋を見ています。ただ、引越しで失われるものは同じで、どちらも「自分で選んで決めた場所」を一度に失います。だから手順も、犬と猫で別々に作る必要はありません。

Note以前どう暮らしていたかは、推測しません

保護犬・保護猫の記事では、以前の環境を想像して手当てを決める書き方をよく見かけます。ここではそれをしません。分からないことは分からないままにして、いま確かめられることだけを材料にします。どこで寝ているか、どの布に自分から乗るか、手が近づいたときにどう動くか。この3つは今日その部屋で見られます。引越しの準備に使えるのも、この3つです。

前の家のにおいを1枚だけ運ぶ|引越し当日までの手順

ここからが実際の手順です。目的はただ1つ、新しい部屋に、その子が知っているにおいを1か所だけ作ることです。全部を持っていくことはできません。家具も床も置いてきます。だからこそ、残すものを1枚に絞ります。増やすほど管理が要るので、荷造りの最中には回りません。

  1. 2週間前:その子が自分から乗っている布を1枚決める

    毛布でも、座布団の上のタオル地でも、着なくなった服でも構いません。条件は1つで、人が置いたものではなく、その子が自分で選んで乗っているものにすること。保護犬・保護猫を迎えた家では、寝床として用意した場所ではなく、そのわきの布を使っていることがよくあります。使われていないほうを運んでも意味がありません。

  2. その1枚を、洗濯の予定から外す

    引越しの前に寝具をまとめて洗いたくなりますが、この1枚だけは洗わずに運びます。におい移りを気にして洗ってしまうと、新居で頼れるものがゼロになります。汚れが気になるなら、その1枚は最後に洗って、代わりに使われはじめた布を新しい1枚として引き継いでください。洗うか運ぶかを迷ったら、運ぶほうを選びます。

  3. 荷造りは、その子がいる部屋から遠いほうへ回す

    部屋を1つずつ片づけて、その子がふだん過ごしている部屋を最後にします。1日で全部屋に手を入れると、逃げ場が同じ日に全部消えます。引越しの日程が決まったら、部屋の順番も一緒に決めてしまってください。順番を先に決めておくと、忙しくなってからも迷いません。

  4. 前日:キャリーとケージを、開けたまま部屋に出しておく

    当日いきなり入れるのがいちばん負担になります。前日から扉を開けたまま置いて、中にさっきの布の切れ端か、いつも使っている敷きものを入れておきます。入らなくても構いません。置いてあることが分かっていれば、当日その中が「知っているもの」の側になります。無理に押し込むと、そこが入りたくない場所になります。

  5. 当日:最後に積んで、最初に降ろす

    運ぶのは、例の布1枚と、いつもの食器と水入れ、それにトイレまわりの一式です。この4つは新居で最初に降ろします。他の荷物より先に置いてしまうほうが、あとの手間も減ります。段ボールの山ができてから場所を探すと、結局あとで動かすことになり、その子はもう一度覚え直すことになります。

引越しで運ぶものと、洗うタイミング
運ぶもの洗うか新居で置く順番
自分から乗っている布1枚洗わずに運ぶいちばん最初
いつもの食器・水入れ運ぶ前に洗ってよい布のすぐそば
トイレ・トイレ砂砂は少し残して運ぶ布から見える位置に
その他の寝具・敷きもの先に洗ってよい2〜3日たってから
キャリー・ケージ前日から出しておく扉は開けたまま置く

「におい1枚」という考え方は、犬と猫のどちらにも同じように使えます。犬の場合は、その布を人が座る場所のそばに置くと落ち着きやすい。猫の場合は、部屋の隅か、少しだけ高さのある面に置くほうが選ばれます。置き方だけ変えて、運ぶものは変えません。引越しの荷物を減らしたい時期に、増える荷物はこれ1枚で足ります。

先に触る、先に片づける|引越し後のやり方でつまずく3か所

新居に着いてからのほうが、実はつまずきやすい。荷物が片づいていく速さと、その子が部屋を覚え直す速さが、まったく違うからです。ここでは、保護犬・保護猫を迎えた家で起きやすい3つを挙げます。3つとも、良かれと思ってやることばかりです。

  1. つまずき1:到着してすぐ、体を拭こうとする

    移動で汚れた気がして、着いた直後に手を出したくなります。けれど、触られることに慣れていない子にとって、環境が変わった直後は、いちばん手を受け取りにくい時間です。ここで無理に押さえると、新しい部屋の最初の記憶が「押さえられた」になります。体はあとから何日でも拭けます。引越し当日は、水と、置き場所と、静かさの3つだけで足ります。

  2. つまずき2:段ボールを一気に片づけて、部屋をきれいにする

    早く元の生活に戻したいので、休みの日にまとめて片づけたくなります。ただ、積まれた段ボールは、その子にとっては当面いちばん頼れる壁と隠れ場所です。全部たたむと、身を寄せる縁がその日のうちに消えます。1〜2箱は、わざと部屋の隅に残しておいてください。数日たって、その子が別の場所を選び始めてから片づければ間に合います。

  3. つまずき3:においを消そうとして、部屋中を一度に整える

    新居のにおいが気になって、掃除と消臭を全面的にやってしまうことがあります。そうすると、せっかく運んだ1枚のまわりまで人の手が入り、唯一の目印が薄くなります。拭き掃除は、布を置いた一帯だけあとに回してください。部屋の他の場所は先に整えて構いません。順番を変えるだけで、目印は残ります。

引越し後によくやってしまうことと、その代わり
やってしまうこと起きること代わりにすること
着いてすぐ体を拭く最初の記憶が「押さえられた」になる水と置き場所だけ用意する
段ボールを全部たたむ隠れる縁が同じ日に消える隅に1〜2箱残しておく
部屋中を一度に拭く運んできたにおいまで薄くなる布のまわりだけ後回しにする
家具の配置を毎日変える覚え直しが振り出しに戻る1週間は動かさないと決める
来客を早く呼ぶ人の出入りが場所より先に増えるその子が部屋を一周してから
Caution隠れていることを、引き出さないでください

引越しの直後に、家具の裏やベッドの下から出てこないことがあります。心配になりますが、そこは今その子が自分で選んだ場所です。引き出すと、選び直しがもう一度必要になります。水と食事とトイレを、その場所から見える範囲に置いて、あとは人が近くで普通に過ごしてください。ただし、まる一日以上、水も食事もとっていない、排泄がない、呼吸が速いといったときは待たずに、動物病院に連絡してください。

体に触るのは最後|新居で保護犬・保護猫に家でできること

引越しのあとに戻していく順番は、場所 → 時間 → 体、の3段です。この順番を守ると、その子の許容の範囲を、こちらから試さずに済みます。逆にすると、まだ場所が決まっていない子に、時刻と手を同時に持ち込むことになります。保護犬・保護猫を迎えた家では、この順番の差がそのまま数週間の差になって出ます。

  1. 1段目:場所(最初の3日)

    運んできた布と、食器と、トイレの位置を動かさないことだけを守ります。やることはこれだけで、増やしません。その子が部屋を一周する、別の場所で寝てみる、窓ぎわに座る。そういう動きが出てきたら、場所の段は終わりです。3日で終わる子もいれば、2週間かかる子もいます。日数はこちらが決めません。

  2. 2段目:時間(次の1〜2週間)

    食事の時刻を、引越し前と同じ時刻に戻します。ごはんの前に何をするか、寝る前に部屋のどこを通るか。毎日の区切りは、時刻ではなく順番のほうで覚えられます。荷ほどきが終わっていなくても構いません。1日のうち2回だけ、同じ順番で同じことをする。それだけで、その子の側に予測できるものが戻ります。

  3. 3段目:体(時間が戻ってから)

    最後が体です。こちらから呼ばず、その子が自分から近くに来た日だけにしてください。触る場所は、顔と背中ではなく、足先や胸元のように視界に入る側から。1回10秒で切り上げて、嫌がる前にこちらからやめます。引越し前にブラッシングができていた子でも、道具はいったん置いて、手だけの日を何日か挟むほうが早く戻ります。

荷ほどきが続いているあいだも、その子の体は毎日汚れます。犬も猫も体から脂を出すので、昨日なでた足先が、今日また同じだけ汚れています。この毎日の側を受け持つ道具が、mofuwa グルーミングスプレーです。吹きかけて拭くだけなので、給湯の場所も乾かす場所もまだ決まっていない部屋で、そのまま1日目から使えます。舐めても問題のない基準でつくられているので、布に含ませる量は気にしなくて構いません。グルーミングスプレーはその子に直接吹きかけず、布に移してから、足先や胸元を毛の流れに沿ってなでるように使ってください。音と霧が苦手な子が多いので、噴霧の音を体の近くで出さないことのほうが大事です。1日1か所で足ります。

引越し後に戻していく3段と、その日にやること
段期間の目安その日にやること
場所最初の3日〜2週間布・食器・トイレを動かさない
時間次の1〜2週間1日2回、同じ順番で同じことをする
体時間が戻ってから自分から来た日に、1回10秒だけ
Caution引越しのせいにしないほうがよい変化

食べない日が2日以上続く、水を飲まない、排泄がない、同じ場所をなめ続けている、皮膚が赤い、脱毛が広がっている、歩き方が変わった、呼吸が速い、隠れたまま出てこない状態が1週間を超える。これらは環境の変化として様子を見るより先に、動物病院にご相談ください。引越しから何日目かは、待ってよい理由にはなりません。日数ではなく、上の項目が出たかどうかで決めてください。

最後に、いちばん大事なところをもう一度書きます。引越しでその子が失うのは、荷物ではなく、自分で選んで決めた場所です。だから家でできることは、選び直すための材料を1つだけ先に置いておくこと。前の家のにおいを1枚残し、新居でそれを最初に置き、体に触るのは最後に回す。保護犬・保護猫を迎えた家の引越しで、こちらから動かせるのは、この順番のほうです。日数は、その子が決めます。

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よくある質問

引越しの何日前から準備を始めればいいですか?
布を1枚決めるのは2週間前が目安です。ただ、決めるだけなので前日でも間に合います。間に合わないのは荷造りの順番のほうで、こちらは日程が決まった時点で決めてしまってください。その子がふだん過ごしている部屋を最後に片づける、と決めておくだけで、逃げ場が同じ日に全部消えることを避けられます。
引越し当日、その子はどこにいてもらうのがいいですか?
作業をしない1部屋に入れて扉を閉め、その部屋を最後に片づけるのが現実的です。人の出入りと荷物の動きが同じ場所で重なると、逃げ場がなくなります。ケージやキャリーに入れる場合も、前日から出しておいたものを使ってください。当日はじめて出したものに入れると、移動そのものより負担が大きくなることがあります。
新居に着いて、どのくらいで元の様子に戻りますか?
3日で部屋を一周する子もいれば、2週間隠れている子もいて、日数はこちらでは決められません。目安にするのは日数ではなく、動きの種類です。水を飲む、排泄する、別の場所で寝てみる、窓ぎわに座る。この4つのうち出てきたものを数えてください。2日以上食べない、排泄がないといったときは、日数に関係なく動物病院にご相談ください。

本記事は日常のお手入れに関する情報提供を目的としており、疾病の診断・治療・予防を目的とするものではありません。皮膚や体調に異常が見られる場合は、自己判断せず動物病院にご相談ください。