C09シーン別・暮らし

シニア犬と暮らす人が一人暮らしで困ること、その手当て

公開日 2021年12月11日|文=mofuwa編集部

明るい部屋で、淡いクリーム色の年老いた犬が薄い色のラグの上に静かに伏せている
支える手が要らない姿勢は、こちらが作るものではなく、その子が自分で選んだ姿勢のことです。写真:Iza Ponchie/Pexels

一人暮らしの部屋で、老犬の後ろ足を1本持ち上げたまま、指のあいだを拭こうとすると、手が1本足りません。片手はその子の胸の下に入っていて、体重を受けています。もう片方で足を持つと、拭くための手がなくなります。押さえてくれる人がいない家では、毎回ここで止まります。ペットのケアの手順は、そのほとんどが、手が2本以上あることを前提に書かれています。この記事では、手を増やす工夫の話をしません。老犬を支える必要そのものを減らして、その子が自分で楽にいられる姿勢を先に作る、という方向で7つの問いに答えます。最後に、一日の流れで通して並べ直します。

一人暮らしの部屋で、老犬のケアはどこでやるのがいいですか

先に決めるのは、道具でも時間でもなく、その子が立つ場所です。部屋の真ん中は、いちばん手が足りなくなる場所です。四方向どこにも寄りかかれないので、老犬は自分の脚だけで体を支えることになります。その支えが崩れる前に、こちらは片手を胸の下へ入れることになる。一人暮らしでペットのケアをするなら、その子の体の片側が必ず何かに当たる場所を先に選んでください。

壁ぎわ、ソファの側面、ベッドの脚元、寝床の縁。どれでも構いません。体の片側が面に当たっていると、老犬は左右のどちらに倒れるかを気にしなくてよくなり、残った片側だけを見ていればよくなります。支える手の仕事の半分は、家具に渡せます。渡したぶん、こちらの手が1本空きます。空いた1本が、そのまま道具を持つ手になります。

置く場所と、そこで支えの代わりになるもの
置く場所何が支えの代わりになるか空く手
壁ぎわ。体の片側を壁につける倒れる向きが片側だけになる胸の下に入れていた手
ソファの側面に沿わせる体の長さぶん、面で当たる腰を押さえていた手
寝床の縁に前足をかけさせる前半身の体重が縁に乗る後ろ足を持ち上げる手
部屋の角。二面が同時に当たる左右と後ろの3方向が決まる位置を直す手
部屋の真ん中何もありません空きません

床のほうも見てください。フローリングの上では、老犬は滑らないように脚へ力を入れ続けます。力を入れている時間は、そのまま疲れていく時間です。滑らない面を1枚敷くだけで、立っていられる時間が変わります。一人暮らしなら、この1枚を出しっぱなしにしておけます。毎回出して片づける手間がないぶん、ここは一人暮らしのほうが続けやすい部分です。

なぜ、一人暮らしだと老犬を支えながら手を動かせないのですか

支える手が、動かせない手だからです。ペットのケアの手順は、たいてい「片手で押さえて、もう片方で拭く」という形で書かれています。手が2本ある人が読むと自然に見えますが、この文は実際には手が3本あることを前提にしています。押さえる手が1本、道具を持つ手が1本、そして、その子が動いたときに位置を直す手が1本。3本めは、どこにも書かれていません。

老犬の側の事情も重なります。シニア期に入ると、同じ姿勢で立っていられる時間が短くなります。若い頃に5分立てていた子が、2分で腰を落とすようになる。こちらの手順がまだ途中でも、その子の側の時間切れが先に来ます。途中で崩れると、押さえていた手を体を受け止めるほうへ回すことになり、道具を持っていた手が止まります。止まったぶん、また最初からやり直しになります。

Note道具で手を1本足そうとしないでください

リードで柱に留める、体を膝で挟んで押さえる。こうした手は、一時的には手が空きます。ただ、老犬は自分で体勢を立て直す力が落ちているので、固定されたまま崩れると、そこから自分で戻れません。一人暮らしで足すべきなのは手ではなく、支えなくてよい姿勢のほうです。姿勢が決まれば、押さえる手も位置を直す手も要らなくなり、残った1本で足ります。

支えなくていい姿勢は、どうやって作るのですか。順番を知りたいです

順番は4つです。ひとつだけ先に書いておくと、道具を持つのは最後にしてください。先に道具を持つと、その子はこれから何が始まるかを分かって身構えます。身構えた老犬は脚に力を入れるので、立っていられる時間がそのぶん短くなります。一人暮らしでは、この数十秒の差がそのまま一日の回数に効いてきます。

  1. 自分が座る場所を、先に決める

    立ったまま上から手を伸ばすと、その子は見上げる姿勢になり、後ろ脚のほうに体重が寄ります。床に座るか、低い椅子に腰を下ろして、目の高さをその子の背中より下にしてください。見上げなくてよくなるだけで、前脚の踏ん張りが減ります。一人暮らしなら、床に座り込むことを誰にも気にしなくて構いません。

  2. その子の体の片側が、面に当たるようにする

    壁でも、ソファの側面でも構いません。呼んで誘導するのではなく、自分がその面の側に座って、来るのを待ちます。老犬は人の側に来るので、結果として体の片側が面に当たります。押し込むと嫌がりますが、こちらが動いた結果そうなったぶんには嫌がりません。

  3. 伏せの姿勢になるまで、何もしない

    1〜2分かかることもあります。この時間を待てるかどうかが、その日の全体の長さを決めます。伏せた老犬は体重の大半を床に預けているので、支える手が要りません。支えなくてよい姿勢とは、こちらが作るものではなく、その子が自分で選んだ姿勢のことです。

  4. そこで初めて、道具を持つ

    手の届く範囲だけをやります。届かない場所は、今日はやりません。ペットのケアで、その日のうちに全身を一周させる必要はありません。1か所ずつ日を分けて回せば、1週間で全身に届きます。

この4つでいちばん大事なのは、3番めの「何もしない1〜2分」です。ここを飛ばして、立っている老犬にそのまま手を出すと、支える手が必要な状態に戻ります。待つ時間は、手を1本増やすのと同じ働きをします。そして一人暮らしでは、この待ち時間を誰にも急かされません。ここだけは、押さえてくれる人がいる家より条件がいい部分です。

老犬を伏せさせたままケアしても大丈夫ですか

大丈夫です。ただし、伏せたままで届く場所と、届かない場所があります。先にその線を引いてしまうほうが早いです。届かない場所のために毎回立たせていると、立たせた回数が、そのままその子の疲れる回数になります。線が引けていれば、立たせるのは一日に1回で済みます。

伏せている老犬に、どこまで手が届くか
体の場所伏せたままこうすれば届く
背中・腰・しっぽの付け根届きますそのままで足ります
首まわり・耳の外側届きます自分が正面に座り直す
前脚・肉球の外側届きます前脚だけを手前へそっと引く
脇の下・お腹届きません向きを変えて、横向きに寝かせる
後ろ脚の内側届きません横向きのまま、上になった脚から先に
おしりまわり半分だけ届きます立たせるのは20〜30秒だけにする

表のいちばん下だけ、立たせる必要が残ります。ここは立たせる時間を先に決めてから始めてください。20〜30秒と決めておくと、その中で終わることだけをやります。終わらなければ翌日に回します。一人暮らしでは、途中で誰かに代わってもらえません。だから、始める前に終わりを決めておく形にします。

Point横向きに寝かせるのは、押し倒すことではありません

伏せている老犬を横向きにするとき、上から押すと嫌がります。下になっている側の前脚を、ゆっくり前へ滑らせてください。支点がなくなるので、その子は自分から横へ体を預けます。頭の下に自分の腿を入れておくと、床に頭を打ちません。ペットのケアで嫌がられる動きの多くは、力の向きが、体を起こそうとする向きと逆になっているときに起きています。

1回にどのくらいの時間をかけていいですか

時計で測らないでください。老犬の1回の長さは、分ではなく姿勢で測ります。始めたときの姿勢が崩れたら、そこで終わりです。伏せていた子が腰を上げた、前脚の位置を置き直した、頭を持ち上げてこちらを見た。このどれかが出た時点が、その日の終わりになります。

目安の数字も書いておくと、伏せたままで2〜3分、立たせるなら20〜30秒です。ただし、この数字は毎日同じにはなりません。前の日によく歩いた翌朝、寒い朝、雨が続いた週は短くなります。同じ手順が昨日は最後まで通ったのに、今日は途中で崩れる。それが普通です。崩れた日を失敗として数えないでください。

一人暮らしだと、1回が短くなるぶん、回数を増やしたくなります。増やして構いません。ただし1日に3回以上に分けるなら、場所を毎回変えてください。同じ場所を一日に何度も触ると、そこだけがこすれます。朝は前脚、昼は背中、夜は耳のまわり。一人暮らしのペットケアは、こうして場所で割ると、一日の合計時間を増やさずに回数だけ増やせます。

一人暮らしで、やらなくてよいことをはっきり決めてほしいです

4つ挙げます。やらなくてよいことを決めるのは、手を抜くこととは違います。手が2本しかないという条件の中で、どれを残すかを決める作業です。減らしたぶん、残ったものの精度が上がります。老犬と一人暮らしで暮らす家では、残る数はもともと多くありません。

4つめだけ、説明を足します。老犬が途中で嫌がったとき、そこでなだめて最後まで続けると、その子の中には「嫌がっても終わらなかった」という形で残ります。翌日、始めるまでの時間が長くなります。逆に、嫌がった時点でこちらがやめると、次の日は同じ場所からすぐ始められます。一人で全部を回している家では、この差が1週間で効いてきます。

洗う回数についても触れておきます。一人暮らしで老犬を洗うのは、支える手の問題がいちばん強く出る場面です。濡れた体は重くなり、滑り、こちらの両手が塞がります。老犬にとっては、湯に入ること自体が負担になる日もあります。数を合わせにいくのはやめて、毎日のケアのほうを、伏せたままできる形で組んでください。グルーミングスプレーを含ませた布で、伏せたまま届く場所から順に拭いていけば、湯を使う日をいつにするかは、その子が自分で立てる日かどうかで決められます。

姿勢を作っても嫌がるときは、どこまでが家の話で、どこからが相談する疑問ですか

姿勢を作っても嫌がるときに、まず疑うのは手順ではなく体のほうです。昨日まで通っていた姿勢が、今日から急に取れなくなったときは、家の工夫の話ではありません。次に挙げる疑問が出たときは、ケアの順番を組み直す前に、動物病院で相談してください。一人暮らしでは、他の家族の目が入らないぶん、変化に気づけるのは飼い主一人です。

Caution姿勢の変化のうち、家の工夫では戻らないもの

立ち上がるのに時間がかかる、後ろ脚が滑る回数が増えた、触ると痛がる場所がある、皮膚が赤い、においがある、食欲や元気が落ちている。いずれかに当てはまるときは、ケアの回数を増やす前に動物病院にご相談ください。老犬は、痛みがあっても声に出さないまま、姿勢のほうを変えて対応します。姿勢の変化は、家で気づける数少ないサインです。立ち上がるまでの秒数を2日ぶん数えておくと、電話の時点で差を伝えられます。

相談に行くときは、伏せるまでにかかった時間、崩れる向き、触って嫌がった場所の3つをメモしてください。老犬は診察室では緊張して、家と同じ姿勢を取りません。家で見ている姿勢のほうが情報になります。10秒だけ動画を撮っておくと、言葉で説明するより早く伝わります。一人暮らしだと説明する人も一人なので、記録は短いほど残ります。

支える手の数ではなく、姿勢の数で数える|一人暮らしと老犬の一日を通しで並べる

7つの答えを、一日の流れで並べ直します。数えるのは、支える手の数ではなく、姿勢の数です。一人暮らしで動かせるのは、その子が今日どの姿勢を何回とったか、というところまでです。手の数は増えませんが、姿勢の数なら増やせます。

一人暮らしの一日を、老犬の姿勢で並べ直す
時間帯その子の姿勢こちらがやることかける時間
朝、起きたときまだ寝床にいる(伏せ)前脚と肉球の外側だけ1〜2分
散歩から帰ったあと玄関で立っている足先を1本ずつ。床に座って20〜30秒×4
日中、こちらが座っているときそばに来て伏せる背中と腰。届く範囲だけ2〜3分
夕方横向きに寝ている脇の下と、後ろ脚の内側2分
夜、寝る前寝床で伏せている耳のまわりと首。記録を1行1分

この表のとおりにやる必要はありません。見てほしいのは、5回のうち4回が、その子が自分で選んだ姿勢の上で行われているということです。こちらが姿勢を作ったのは、玄関の20〜30秒だけ。一人暮らしでペットのケアが回らなくなるのは、この比率が逆になったときです。こちらが作った姿勢が4つで、その子が選んだ姿勢が1つ。そうなると、手が足りなくなります。

毎日のケアに使うものも、姿勢の数で選びます。グルーミングスプレーを乾いた布に含ませて、伏せたままで届く場所だけを毛の流れに沿って拭く。すすぎも乾かす時間も要らないので、この2分のあいだに立たせる姿勢が1つも増えません。その子が自分で選んだ姿勢の上で、毎日きれいにしておけるというのが、これを選ぶ理由です。口のまわりを拭く日もありますが、舐めても問題のない基準(清涼飲料水の規格基準をクリア)でつくられているので、布に含ませる量を気にする必要はありません。

一人暮らしで老犬と暮らすことの難しさは、手が足りないことそのものではありません。手が足りない前提で書かれた手順が、どこにも見当たらないことのほうです。支える必要そのものを減らせば、残った1本の手で足ります。その子が自分で楽にいられる姿勢を先に作る。一人暮らしでペットのケアを続けるために動かせるのは、そこです。

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本記事は日常のお手入れに関する情報提供を目的としており、疾病の診断・治療・予防を目的とするものではありません。皮膚や体調に異常が見られる場合は、自己判断せず動物病院にご相談ください。