C09シーン別・暮らし
多頭で暮らすを楽にする、保護犬・保護猫を迎えた人の毎日の習慣
ケージの扉を開けた日、先住の3頭は近づいてきませんでした。2頭の犬は廊下の入口に座ったまま、猫は棚の上から見下ろしたまま、10分ほど動かない。こちらは、鼻を合わせるところまで見届けたくて、つい新入りの胴を持って前へ出そうとしました。手が体に触れたところで、その子は後ろへ下がりました。多頭飼いの家に保護犬・保護猫を迎えるとき、新しく来た子が向き合う相手は、人ではありません。先にそこで暮らしている子たちのほうです。以前どこでどう過ごしていたかは分かりませんし、聞くこともできません。分かるのは、この部屋で今日から何が起きるかだけです。この記事は、その距離を人が縮めようとして失敗した話と、代わりに何を毎日の習慣に置いたかという読みものです。仲介したのは人ではなく、時間と距離でした。
先住の3頭は、座ったまま見ていました|多頭飼いに保護犬・保護猫が加わる日の背景
迎えた日の室内は、思っていたより静かでした。吠える子も、走り出す子もいません。先住の3頭は、それぞれの場所から動かずに、新しく来た子のほうを見ていました。犬2頭は廊下の入口、猫は棚の上。距離にして3メートルほど、高さにして1メートル半ほど離れた場所です。この配置は、その日の夜も、翌日も、ほとんど変わりませんでした。
多頭飼いの家に保護犬・保護猫を迎えるとき、こちらが用意できるのは物と時間割だけです。ケージ、食器、寝床、トイレ。数は増やせます。けれど、その子が誰の隣にいるかは、こちらが決められる範囲の外にあります。先住の子たちのほうが先にこの部屋を使っていて、どこが誰の場所かという地図を、すでに持っているからです。
保護犬・保護猫を迎えた人は、その子が以前どこでどう暮らしていたかを知りません。書類に残っていることもありますが、書かれていないほうが多い。ここで、想像で埋めないでください。怖がっている理由を推測して物語をつくると、その物語に合わせてこちらの手が動きます。動いた手は、たいてい多すぎます。分かっているのは、今日この室内で何が起きたかだけです。それだけを書き留めていきます。
| 時間 | 先住の犬2頭 | 先住の猫 | 新しく来た子 |
|---|---|---|---|
| 扉を開けた直後 | 廊下の入口に座る | 棚の上から見る | ケージの奥から出ない |
| 30分後 | 同じ場所。伏せた | 同じ場所。目を細める | ケージの入口まで出る |
| 2時間後 | 台所へ移動 | 動かない | ケージの外に前脚だけ |
| その日の夜 | いつもの寝床へ | 棚の上で眠る | ケージの中で眠る |
| 翌朝 | 廊下の入口に戻る | 棚の上 | ケージの入口に座っている |
表にしてみると、動いているのは新しく来た子のほうだけだと分かります。先住の3頭は、位置をほとんど変えていません。多頭飼いの家で起きているのは、対面でも歓迎でもなく、先にいる側が場所を動かさないまま、新入りが少しずつ出てくるという一方通行の進み方です。こちらが「まだ仲良くなっていない」と感じている時間は、実際には毎日すこしずつ進んでいました。
保護犬・保護猫を迎えた家でいちばん多い不安は、いつまでも同じ部屋で並んでくれない、というものです。ただ、多頭飼いの室内で並んで休むという状態は、距離が縮まった結果として最後に出てくるものです。順番の最後にあるものを、最初の週に探すと、毎日が不安な時間になります。見る順番を変えてください。
人が間に立つと、その子の下がれる場所が消えます|多頭飼いで保護犬・保護猫を引き合わせない考え方
最初の3日、こちらは何度も間に立ちました。新入りを抱えて先住犬の前に置く、猫の下まで連れて行く、おやつを2頭のあいだに落とす。そのたびに、新しく来た子は同じ動きをしました。体を低くして、後ろへ1歩下がる。4日目に手を止めて、初めて気がついたことがあります。抱えて前へ出したとき、その子には下がれる場所がありませんでした。
距離というのは、2頭のあいだの長さのことではありません。近づいた分だけ、下がれる長さが残っているかどうかのことです。自分の足で3歩近づいた子は、3歩ぶん下がれます。人の手で3歩ぶん運ばれた子は、下がる道が体の後ろではなく、人の腕の側にあります。だから動けません。多頭飼いの室内では、この差が先住の子たちにも伝わります。動けない子は、相手からも読みにくい相手になります。
触られることに慣れていない子の場合、ここがもう一段むずかしくなります。保護犬・保護猫を迎えた人が持っている条件は、その子の許容が先にあって、こちらの段取りが後にある、という順番です。抱えて運ぶという手は、その順番を反対にしてしまいます。仲介したつもりの動作が、実際には距離の調整を1つ取り上げていました。
では誰が仲介するのか。答えは、時間と距離そのものです。多頭飼いの家では、頭数のぶんだけ「同じ室内で、何もしないで過ごした時間」が積み上がります。その積み上がりが、こちらの手より正確に距離を決めていきます。実際、こちらが手を止めた4日目から、新しく来た子はケージの外で寝るようになりました。
- 距離の1段め:見える場所にいる:同じ室内で、姿が見えている。目を合わせなくて構いません
- 距離の2段め:同じ床の上にいる:ケージや台の上ではなく、同じ高さに降りてくる
- 距離の3段め:通り道を共有する:先住の子が通ったあとを、続けて通るようになる
- 距離の4段め:同じ時間に食べる:離れた場所でよいので、時刻がそろう
- 距離の5段め:並んで休む:ここが最後です。数か月かかることも、来ないこともあります
この5段のうち、人が手を出して動かせるのは1段めだけです。2段めから先は、その子と先住の子たちのあいだで決まります。多頭飼いで保護犬・保護猫を迎えた家がやることは、5段めを早めることではなく、1段めが毎日成立する部屋のつくり方を用意することでした。
寝床の位置を変え、食器の場所を変え、ケージの扉を開ける。これを同じ日にやると、何が効いたのかが分からなくなります。変えるのは週に1つまで。多頭飼いは条件が頭数ぶん重なるので、1つずつ動かさないと、あとで戻すこともできません。うまくいかなかったときに戻せることのほうが、進む速さより大事です。
同じ室内にいた時間だけが、距離を変化させます|多頭飼いの毎日に置いた3つの習慣
人が仲介しないと決めたあと、毎日の習慣に残したのは3つだけです。どれも、その子に触るための習慣ではありません。同じ室内にいる時間を、こちらが用意するための習慣です。多頭飼いは1頭あたりの時間が頭数で割られるので、増やす方向の習慣は最初から続きません。
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習慣1:帰宅後の順番を、先住から始めて固定する
帰宅後、玄関で先住の犬から順にさわり、最後に新しく来た子のいる部屋へ入ります。順番を毎日そろえると、その子は自分の番が来ることを時間で覚えます。新入りを先にすると、先住の子たちの側が落ち着かなくなり、室内全体の距離が動きます。多頭飼いでは、新しく来た子だけを見ていると足元が崩れます。
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習慣2:道具と布を、頭数ぶん分ける
ブラシ、拭き取り用の布、食器。使い回さずに1頭ずつ分けます。多頭飼いで最初に混ざるのは、位置ではなくにおいのほうです。保護犬・保護猫を迎えたばかりの時期は、自分のにおいの場所がその子の安心の目印になります。分けるのは衛生の話ではなく、目印を保つための線引きです。
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習慣3:1日1回、何もしない10分を同じ部屋でとる
座って、本でも携帯でも見ています。呼ばない、目を合わせない、手を出さない。この10分が、5段のうち1段めをつくる時間です。先住の子たちも同じ部屋にいて構いません。むしろ、いたほうが早い。距離を縮めているのは人ではなく、同じ室内で流れた時間のほうだからです。
3つとも、その子に近づく動作を含んでいません。やっているのは、順番を固定すること、においを分けること、何もしない時間を置くことだけです。それでも、この3つを毎日続けた週から、室内での位置が動き始めました。ケージの中で寝ていた子が入口で寝るようになり、次の週には廊下で寝るようになりました。
洗う日の組み立ても、この時期に決めておきます。背中から腰の地肌は、どの子も自分では届かない場所です。毛づくろいで届くのは表面までで、被毛の下に手が入るのは、こちらが水を入れたときだけです。ただ、触られることに慣れていない子に、押さえて擦る工程はまだ使えません。mofuwa 入浴シャンプーは、お湯に溶かして、湯そのものを洗浄液にするタイプです。泡を立てて被毛をかき分ける工程がないので、こちらの手は体を支えるほうだけに使えます。順番は、ここでも先住からです。先に住んでいる子が浴室で何をされているかを、新しく来た子が廊下から見ている。習慣1で固定した順番を、そのまま洗う日にも当てはめます。新入りの番は、その子が自分で浴室の入口まで来た日だけ。来なかった日は、その週はやりません。使った布は、習慣2のとおり頭数ぶんに分けたままにしてください。
| 何をするか | 決める単位 | |
|---|---|---|
| 習慣1 | 帰宅後の順番を、先住から新入りへ固定する | 1日1回 |
| 習慣2 | 道具・布・食器を頭数ぶん分ける | 迎えた最初の週に1度 |
| 習慣3 | 何もしない10分を、同じ室内でとる | 毎日、同じ時刻に |
粒度をずらしてあるのは、忙しい週に全部が同時に止まらないようにするためです。習慣2は最初に1度やれば残りますし、習慣1は玄関で終わります。実際に続かなくなるのは習慣3だけで、それも週に4日できていれば、室内の時間は積み上がっていきます。
4週間めに入れ替わったのは、においの順番でした|保護犬・保護猫を迎えた多頭飼いの経験
位置が動くより先に変わったものがあります。においです。迎えて2週間ほどのあいだ、その子のにおいは室内で明らかに別のものとして分かれていました。寝床のあたりだけ、他の3頭とは違うにおいがする。4週間めに、それが分からなくなりました。同じ部屋のにおいに混ざったのではなく、順番が入れ替わったという感じ方に近い変化です。
多頭飼いの室内では、においは体から出て、布と床に移り、また体に戻ります。同じ寝床を順番に使い、同じ通り道を歩けば、においは自然に混ざります。その子が室内を歩く距離が延びるほど、混ざる速さは上がります。だから、においの入れ替わりは、位置の変化より早く出ます。位置がまだ動いていない週でも、においのほうは先に進んでいました。
| 週 | 位置の変化 | においの変化 |
|---|---|---|
| 1週目 | ケージの中で眠る | 寝床のあたりだけ別のにおい |
| 2週目 | ケージの入口で眠る | 変わらず |
| 3週目 | 廊下で眠る。先住の通り道を使う | 布のにおいが近づく |
| 4週目 | 同じ部屋の隅で眠る | 分けて嗅ぎ分けられなくなる |
| 6週目 | 先住の犬と同じ時刻に食べる | 室内で1つになる |
この表を見ていると、こちらが何かをした週というのが1つもないことに気づきます。やっていたのは、順番を固定して、道具を分けて、同じ室内に座っていただけです。保護犬・保護猫を迎えた多頭飼いの家で、人ができることは思ったより少ない。少ないぶん、その3つを毎日そろえるほうに手が回りました。
ただし、においの変化のうち、混ざる方向ではないものもあります。1頭だけ、においが強くなる。特定の場所からにおう。皮膚に赤みやただれが見える。同じ場所をなめ続けている。こうした変わり方は、距離が縮まる話とは別のものです。多頭飼いだから移ったのだろう、と家の中で説明をつけないでください。気になる変化が続くときは、自己判断せず動物病院にご相談ください。触られることに慣れていない子ほど、受診の順番を先にしておくほうが、あとの負担が軽くなります。
6週間が過ぎたころ、新しく来た子は先住の犬と同じ時刻にごはんを食べるようになりました。並んで休むまでは、まだ来ていません。来ないかもしれません。それでも、同じ室内に4頭がいて、それぞれの場所が決まっている状態は、迎えた日から数えて確かに変わりました。多頭飼いで保護犬・保護猫を迎えるとき、こちらが動かせるのは距離そのものではなく、距離が動くための時間を毎日どれだけ室内に置けるか、のほうでした。手を出さなかった時間が、いちばん効いています。
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商品ページを見る本記事は日常のお手入れに関する情報提供を目的としており、疾病の診断・治療・予防を目的とするものではありません。皮膚や体調に異常が見られる場合は、自己判断せず動物病院にご相談ください。
