C05犬種・猫種別ケア
マルチーズはなぜ毛のもつれが起きやすいのか。シルキーコートから考える
マルチーズを抱き上げたとき、脇の下から少し下がったあたりで、指が毛の中に引っかかることがあります。体に触れている根元の毛は指をさらさらと通し、床のほうへ向いた毛先も、つまめば手のひらの中で流れていきます。引っかかるのはその中間、体の面から離れて、何にも支えられずに垂れている部分です。マルチーズのもつれは、根元でも毛先でもなく、その途中で始まります。まっすぐで重い毛は、体の丸みに沿って途中までは支えられ、そこから先は空気の中に置かれます。この記事では、その「途中」で毛に何が起きているのかと、毎日のケアで手が届いていない場所について書きます。
体の面から離れる境目|マルチーズのもつれが根元でも毛先でもない理由
マルチーズの被毛は一層です。外側の硬い毛と内側の綿のような毛に分かれておらず、細くてまっすぐな毛が同じ性質のまま生えそろっています。しかも切らずにいれば伸び続けるので、放っておけば床に届く長さになります。背の中心で左右に分かれ、体の側面をなぞりながら下へ垂れる。これがマルチーズの毛の、いちばん基本的な置かれ方です。
ここで見落とされやすいのが、体が丸いということです。胸も腹も脇腹も、上から下へまっすぐ落ちてはいません。毛は途中まで体の面に触れながら垂れ、体の輪郭が内側へ入り込むところで、行き先を失って体から離れます。1本の毛には、体に触れている区間と、体から離れて宙に垂れている区間があります。そして毛先だけが、床やソファ、飼い主の服に触れます。
指が引っかかるのは、たいてい真ん中の区間です。体に触れている区間は、隣の毛と同じ向きにそろえて押さえつけられているので、そもそも動く幅がありません。毛先は自由に動きますが、動いてもすぐに重みで下へ戻ります。中間だけが、支えを失っているのに向きはそろっていない、という状態に置かれています。前から流れてきた毛と、後ろから流れてきた毛が、ちょうどその高さで出会います。
この区間の場所は、その子の体つきと毛の長さで決まります。脇の下から肘の後ろにかけて、胸の下、後ろ脚の付け根、耳の付け根の裏。どれも体の輪郭が急に内側へ入るところで、毛が体を離れる高さが低くなります。マルチーズのもつれを探すときは、症状ではなく、この「離れる境目」のほうを先に探してください。境目が分かれば、その少し下が、その子の毛のいちばん危ない高さです。
- 根元の区間:皮膚と隣の毛に挟まれて、向きが固定されています
- 離れる境目:体の輪郭が内側へ入り、毛が支えを失う線です
- 宙に垂れている区間:支えがなく、向きもそろっていません。もつれはここに集まります
- 毛先:よく動きますが、動いたぶんだけ重みで下へ戻ります
- 境目の高さは場所ごとに違う:脇の下と胸の下では、危ない高さが変わります
マルチーズは小柄で、体の面積そのものは広くありません。それでももつれが起きるのは、量ではなく毛の置かれ方のせいです。量の話にすると、答えは「もっと長い時間ブラッシングする」になります。置かれ方の話にすると、答えは「どの高さに手を入れるか」に変わります。かけている時間ではなく、手が届いている高さのほうを見てください。
まっすぐで重い毛が、途中で支えを失う|マルチーズのもつれの考え方
宙に垂れている区間で、毛どうしは一度交差しただけでは終わりません。交差したまま、そこにとどまります。理由は3つあり、どれもマルチーズの毛がまっすぐで、細くて、長いことから来ています。ここを押さえておくと、もつれを見つけたときに「なぜここなのか」が分かるようになります。
1つめは、触れ方です。カールした毛は、隣の毛と点で触れます。まっすぐな毛は、隣の毛と線で触れます。マルチーズの毛は根元から毛先までほぼ一直線なので、隣り合った2本が寄り添うと、数センチにわたって触れ合ったままになります。触れている距離が長いほど、離れるきっかけは減ります。
2つめは、重さです。マルチーズの毛は1本1本は細いのに、長く伸びるぶん、束になると相応の重みを持ちます。交差した点の上に、その先の毛の重みがそのままかかります。交差は、上から押さえつけられて位置が固定されます。指ではじいてもほどけない引っかかりは、たいてい重みで押さえられているだけで、力を入れて動かす必要はありません。
3つめは、揺れ方です。宙に垂れている区間は、歩くたび、走るたび、抱き上げられるたびに揺れます。ただし、束のまま揺れます。束のまま揺れているあいだ、束の中で毛どうしの位置は入れ替わりません。1日に何百回、何千回と揺れても、交差した点はそのまま運ばれ続けます。もつれが「気づいたら育っていた」ように見えるのは、この時間のかかり方のせいです。
| 根元の区間 | 宙に垂れている区間 | 毛先 | |
|---|---|---|---|
| 支えているもの | 皮膚と隣の毛 | 何もありません | 重みだけ |
| 向き | そろっています | 前後から来た毛が出会います | ばらばらです |
| 動く幅 | ほとんど動きません | 束のまま大きく揺れます | よく動きます |
| 交差したあと | そもそも交差しません | 重みで押さえられて残ります | 揺れて自然にほどけます |
| ブラシの届き方 | 毛を分ければ届きます | 外側からは表面しか通りません | いちばん届きます |
| 手を入れる向き | 上から下へ | 体と毛のあいだから、下から | どこからでも |
そしてもうひとつ、ブラシの当て方の問題があります。垂れた毛は、体の横に一枚の面をつくります。その外側からブラシを当てると、歯は面の表側を滑って毛先へ抜けます。宙に垂れている区間の内側、体とのあいだにできた空間には、外から当てたブラシは入りません。毎日ブラッシングしているのにマルチーズのもつれが同じ場所に戻る、というときは、道具ではなく手を入れる向きのほうを疑ってください。
季節でも条件が動きます。空気が乾いて静電気が起きやすい時期は、垂れた毛が広がって、隣の毛と触れる回数が増えます。逆に湿った日は毛が体に貼りつくので、離れる境目が下へずれます。境目がずれるということは、危ない高さもずれるということです。昨日まで引っかかっていなかった場所に引っかかる日があるのは、毛が変わったからではなく、境目が動いたからのことがあります。
体と毛のあいだへ手を入れる|マルチーズのもつれに起きる変化
ここからは、変えられる条件の話です。毛がまっすぐなことも、伸び続けることも変えられません。変えられるのは、宙に垂れている区間に手が届いているかどうかと、その区間の長さです。道具を買い足す前に、次の順で手の向きだけを変えてみてください。
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手のひらを体の面に当てて、そのまま下へ滑らせる
毛の外側ではなく、体の側から始めます。手のひらが体に沿って進み、ある高さで毛の下に入り込みます。そこがその子の「離れる境目」です。脇の下、胸の下、後ろ脚の付け根で、境目の高さがそれぞれ違うことが手で分かります。
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境目のすぐ下で、毛の束を手のひらに乗せて持ち上げる
つまむのではなく、下から支えて浮かせます。垂れていた面が持ち上がり、これまで外から見えていなかった内側の面が上を向きます。マルチーズのもつれは、この面に出ています。ここで初めて、その日に手を入れる場所が決まります。
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持ち上げた状態のまま、下側の面から短く通す
根元から毛先まで一気に通そうとしないでください。引っかかりの少し下に道具を入れて、毛先の側へ短く抜く。それを何回かくり返して、少しずつ上へ上がります。交差は重みで押さえられているだけなので、重みを外してやれば、力はほとんど要りません。
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反対側の手で、毛の根元を軽く押さえておく
押さえる場所は、引っかかりより体に近い側です。こうすると、道具が動いても皮膚が引っぱられません。嫌がる、体をよじる、声を出すというときは、押さえる位置が引っかかりから遠すぎます。もっと近くを持ってください。
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最後に、外側の面を上から一度だけ流す
内側が通ったあとで、表側の向きをそろえます。順番が逆になると、外側の毛は整っているのに内側の面は手つかず、という状態がそのまま残ります。マルチーズでは、内側が先で、外側が後です。
手の向きが変わったら、次は毛が擦れている高さを見直します。ハーネスの縁、首輪の下、抱き上げるときの腕が当たる場所、服の裾、ベッドの縁。どれも、ちょうど宙に垂れている区間の高さに当たります。その子のもつれが毎回同じ場所に出るなら、毎日そこを押さえているものが生活の中にないか、思い出してみてください。道具を変えるより先に効くことがあります。
- 分け目を毎日きっちり同じ線にしない:同じ場所で同じ向きに折れ続けるのを避けられます
- 洗ったあとは、体に貼りついたまま乾かさない:根元から風を入れて、毛を浮かせながら乾かします
- 乾いた季節は、触れている布の素材を見直す:静電気で毛が広がると、触れ合う回数が増えます
- 長さの方針を決める:短くすると、宙に垂れている区間そのものが短くなります
- 1日で全身を回そうとしない:今日は脇の下、明日は後ろ脚の付け根、で足ります
通す前に、毛の滑りをそろえておきます。mofuwa の毛玉予防ジェルは、被毛の1本1本をコーティングして、隣の毛と線で触れても解けやすい状態を保つためのものです。手にとって伸ばしてから、持ち上げた内側の面に薄くなじませてください。マルチーズの宙に垂れている区間は、まっすぐな毛が面で押し合う場所なので、滑りがそろうだけで通すときの力が要らなくなります。塗っておくと、もつれができにくい状態が続きます。すでにできてしまった場所には、毛玉予防ジェルをもみこんでゆるめてから、下の面へ道具を入れます。ゆるんでこないときは、グルーミングスプレーを足してもみこむと、よりほぐれやすくなります。固まった場所へ塗り込んだまま置かないこと、それだけは守ってください。
変化は、手ざわりで確かめられます。境目のすぐ下に手のひらを差し入れて、抵抗なく毛の下へ入るかどうか。2週間ほど同じやり方を続けると、入りやすくなった場所と、変わらない場所が分かれてきます。変わらない場所があるなら、そこだけ境目の高さを取り違えている可能性があります。もう一度、体の面に手を当てるところからやり直してください。
白くてまっすぐな毛は、外側の面がそろっていれば、内側に何があってもきれいに見えます。見た目が整っていることは、内側が通っている証明にはなりません。抱き上げたついでに脇の下へ手のひらを差し入れる、と決めてしまうと、思い出さなくても毎日回るようになります。手ざわりの違いは、数日で覚えられます。
同じ高さに戻るもつれは、マルチーズの毛の経験だけでは説明がつきません
ここまでは、毛の置かれ方で説明のつく話でした。まっすぐで重い毛が、途中から支えを失って垂れる。その区間に手が届いていない。けれど、向きを変えて手を入れているのに、同じ高さのもつれが短い間隔で戻ってくるときは、別の見方をしてください。長く一緒に暮らしてきた経験の中で「いつもと違う」と感じたなら、その感覚のほうを優先してかまいません。
- 季節の区切りと関係なく、急に引っかかるようになった:乾燥や静電気の説明と合いません
- 左右で手ざわりがはっきり違う:寝る向きや、体を寄せている面が関わっていることがあります
- その場所を気にしている:なめる、かく、床にこすりつける。もつれより先に、皮膚のほうを見てください
- 持ち上げた内側の面に、赤みやにおいがある:湿った状態が続いた結果として起こることがあります
- 根元の側から毛が抜けて、地肌が見えている:毛の置かれ方の話ではありません
- 触ると嫌がる、声を出す:痛みがあるときは、その場で手を止めてください
地肌が赤い、じくじくしている、においがある、触ると痛がる、同じ場所をなめ続けている、毛が根元から抜けて地肌が広く見えている、元気や食欲が落ちている。いずれかに当てはまる日は、手を入れるのをやめて、動物病院で地肌を見てもらってください。マルチーズは垂れた毛の内側が外から見えないぶん、変化が進んでから気づくことがあります。手ざわりで「いつもと違う」と思った日づけを、そのまま伝えてください。
相談やトリミングに行く前には、引っかかる高さ、いつからか、その場所を毎日押さえているものの3つを書き出しておいてください。この3つがそろっていると、毛の置かれ方で説明のつくもつれなのかどうかを、その場で切り分けてもらえます。ほどききれなかった場所は、無理に触らずそのまま連れて行ってください。前の晩に通しておくと、引っかかっていた高さがどこだったか分からなくなります。
最後に、マルチーズと暮らすうえで変えられないことを、もう一度確かめておきます。毛は伸び続けます。まっすぐなので隣の毛と線で触れます。体が丸いので、ある高さから毛は体を離れます。ここまでは、この犬種の毛が持っている作りです。もつれをゼロにする方法はありませんし、目指す必要もありません。
動かせるのは、宙に垂れている区間に手が届いているかどうかと、その区間で毛が交差したまま置かれている時間の長さです。体と毛のあいだへ手を入れて、下から持ち上げて、内側の面から短く通す。マルチーズのもつれで飼い主が変えられるのは、この向きひとつです。今日どの場所に手を入れたか、それだけ覚えておけば、明日は続きから始められます。
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本記事は日常のお手入れに関する情報提供を目的としており、疾病の診断・治療・予防を目的とするものではありません。皮膚や体調に異常が見られる場合は、自己判断せず動物病院にご相談ください。
