C14トリマー/獣医師視点

暴れる子を押さえない、という考え方

公開日 2023年11月19日|文=mofuwa編集部

明るい部屋の淡い色の床に、落ち着いて立っている淡色の犬
押さえる手が1つ増えるたびに、その子が体重をかけられる支点も1つ増えます。写真:Leohoho/Pexels

動き出す0.5秒前に、首の付け根がわずかに浮きます。頭は動かず、足も床についたままです。浮いているのは、肩と首がつながっているあたりの皮膚だけです。トリミングの現場で、暴れる犬を押さえない組み立てを選んでいるのは、この0.5秒が見えるからです。押さえる手は、必ず1点で当たります。1点で当たった手は、その子が体重をかけられる支点になります。支点が増えるほど、同じ力で大きく動けるようになる。押さえるほど動きが強くなるのは、気持ちの問題ではなく、体の使い方がそうなっているからです。ここでは、動き出す前に出るサイン、動きの向きで4つに分ける見分け方、手を止める秒数の目安の順に置きます。

首の付け根が浮く0.5秒|暴れる犬のトリミングで最初に出るサイン

動きは急に始まりません。暴れる犬の場合、動き出す前に必ず体のどこかが先に準備をします。いちばん早く出るのは、首の付け根の皮膚です。肩と首がつながっているあたりが、指の下でわずかに浮きます。次に前足の爪が床をつかみ、それから重心がどこかへ移る。ここまでが0.5秒から1秒ほどのあいだに起きます。トリミングの現場で見ているのは、この最初の浮きです。

動き出すまでに、体が使う1秒 首の付け根の皮膚が浮き、爪が床をつかみ、重心が移り、それから体が動きます。手を止めるのに間に合うのは、最初の2つまでです。3つ目まで進んでから手を離すと、離した反動が加わります。 秒数はその子の体格と、その日の慣れ方で前後します 0.5秒前 首の付け根が浮く 指の下の皮膚だけが持ち上がる 0.3秒前 前足の爪が床をつかむ 音が出ることもある 0秒 重心が移る ここから先は止められない 0.5秒後 体が動く 押さえている手が支点になる
見ているのは動きそのものではなく、動く準備のほうです。

このサインが見えていると、手の使い方が変わります。浮いた時点で、触っていた手をその場から1センチだけ浮かせます。離すのではなく、圧をゼロにする。触れている面積は変えません。押さえていた圧が消えると、支点にしようとしていた力の行き先がなくなるので、多くの子はそこで動きを止めます。止まったら、また同じ場所に同じ面積で手を戻します。

暴れる犬のトリミングが長引く原因の多くは、このサインを飛ばしていることです。動いてから対応すると、対応そのものが次の動きの材料になります。動いた、押さえた、もっと動いた、もっと押さえた。この往復が3回続くと、その日はもう元の落ち着きには戻りません。現場が0.5秒を見ているのは、往復に入る前で切りたいからです。

家でも同じサインが使えます。爪を切る、耳のまわりを拭く、足先を持つ。どの場面でも、触っている指の下の皮膚が浮く瞬間があります。浮いたら圧を抜いて、3秒待ってから続けます。この3秒を挟むだけで、途中で終わらせるしかなかった手入れが、最後まで通ることがあります。

動きの向きで4つに分ける|暴れる犬のトリミング中に起きることの見分け方

動きを強さで見ていると、どれも同じに見えます。分かれるのは向きです。どこへ向かって動いたのかを1回だけ覚えておくと、次にやることが決まります。現場では、この4つで分けています。

動いた向きと、その先でやることの分かれ方
動いた向き体の側で起きていること次にやること
出口・床の方向へその場から離れたい逃げ道を1つ開けて、30秒待つ
触られている場所から離れる向きそこに理由があるその場所だけ最後に回す
人の手のほうへ手が当たっていることが負担圧を抜いて、面を広げる
足元を探す動き床が定まっていない滑り止めを敷き、立ち位置を変える
向きが毎回変わる全体が長すぎる工程を2つ削って、日を分ける

この4つのうち、見落としやすいのは2番目です。触られている場所から離れる向きに動く子は、その1か所だけで動きます。ほかの場所では平気なので、全体としては落ち着いている子に見えます。左の前足を持ったときだけ体をひねる、右の耳のふちだけ頭を振る。向きが毎回同じなら、そこに理由があります。暴れる犬とひとまとめにすると、この1か所が見えなくなります。

この見分け方は、家でもそのまま使えます。動いた回数を数えるのではなく、向きを1回だけ書き留めます。回数は日によって変わりますが、向きは変わりにくいところがあります。同じ向きが3回そろったら、その向きに対応する手を先に打つ。順番はそれだけです。

点で押さえず、面で支える|暴れる犬のトリミングで手を止める秒数の目安

押さえないというのは、手を離すことではありません。当たる面積を広げて、支点をつくらないという意味です。指先で押さえると、当たっているのは数平方センチです。その1点を軸にすれば、その子は自分の体重で大きく動けます。手のひら全体を体に沿わせると、当たる面が広がり、どこを軸にしても同じだけの力がいるようになります。力で勝とうとしなくても、動きは小さくなります。

  1. 当たる面を手のひら全体にする

    指を立てず、手のひらと指の腹を体の曲面に沿わせます。胸の下、後ろ足の付け根、肩の外側のうち2か所に、押し込まずに置くだけにします。押す力はかけません。

  2. 1工程を20秒で切る

    同じ姿勢を続けさせる時間を20秒までにします。20秒たったら手を全部離して、その子を自由にします。暴れる犬の場合、この区切りがないと、こちらが気づく前に限界を越えています。

  3. 浮きが出たら3秒止める

    首の付け根が浮いたら圧をゼロにして3秒待ちます。止まったら同じ場所に手を戻します。止まらなければ、その工程はその日はやりません。

  4. 終わったあとの地肌に1本置く

    トリミングのあと、毛を分けて mofuwa スキンケアミストを10センチ離して吹きかけ、指の腹でなじませます。触られていた場所と、こすれていた場所から始めます。

最後の1手を毎日の側に置いているのは、暴れる犬ほど体の表面に跡が残るからです。mofuwa スキンケアミストは高機能性電解酸化水100%で、精製水と浸透のしやすさを比べた自社の検証では35倍という数字が出ています。毛の上で止まらずに地肌まで落ちるので、動いていた子の毛を長く分けておく必要がありません。短い時間で置けるものかどうかは、20秒で区切る組み立てではそのまま条件になります。

使う場所を選ばないことも、この場面では効いてきます。中身が高機能性電解酸化水100%なので、口のまわりでも耳のふちでも、手を持ち替えずに続けられます。動いていた子が帰宅後に舐めるのは、たいてい押さえられていた場所です。届かせたい場所と舐める場所が重なるので、場所ごとに手を止めなくていいほうが最後まで通ります。水そのものなので、拭き取りに戻る工程も増えません。

秒数の目安は、その子ごとに書き換えていきます。20秒で切っていた子が、3週間後に40秒まで伸びることはよくあります。伸ばすときは10秒ずつです。一度に倍にすると、伸ばした日の途中で往復に入ります。暴れる犬のトリミングで積み上げていくのは、耐えられる時間ではなく、こちらが切り上げる秒数のほうです。

同じ場所で3回続いたとき|暴れる犬のトリミングと家での様子見の線

手を変えても残るものがあります。同じ場所で、同じ向きに、3回続けて動いたときです。1回なら偶然、2回なら手順の癖、3回目からは体の側に理由があります。暴れる犬という見方をしているあいだは、この3回が数えられません。向きを書き留めておくのは、このためでもあります。

どこまで家で様子を見て、どこで切り替えるか
起きていること様子見の幅切り替える線
全身で動く日が続く2週間、工程を減らして続ける減らしても同じなら記録を持っていく
1か所だけで動く様子見にしないその週のうちに診てもらう
動きが週ごとに強くなる1週間強くなる向きが同じなら早めに
触っていない日でも同じ姿勢を嫌がる様子見にしないその日のうちに相談する
立ち位置が定まらない3日、床を変えて見る床を変えても同じなら持っていく
Caution向きがいつも同じで、こちらの手では動かないとき

同じ1か所だけで3回続けて動く/先月まで平気だった場所で急に体をひねる/触っていない日も同じ姿勢を取らない/動いたあとに同じ場所を長く舐めている。こうした残り方は、押さえ方を直しても変わりません。痛みがあると、触られること自体が先に苦手になります。触った場所と、そのとき動いた向きを並べた記録を持って、動物病院で診察の枠を取ってください。そのうえで、家での手入れは工程を減らして続けられます。

現場からも、同じ線で病院へつなぎます。トリミングを途中で止めて飼い主へ伝えるのは、動く向きが毎回同じだったときです。向きが毎回散らばっているうちは組み立ての話で、向きが1つに固まったら体の話です。この線は、飼い主への説明にそのまま使えます。押さえれば終わりますという言い方をしないのも、同じ理由です。押さえて終わらせた日は、何が起きていたのかが記録に残りません。

押さえた手の数を数えて渡す|暴れる犬のトリミングを家の手入れにつなぐ

飼い主に渡すのは、手つきではありません。その日、何本の手で押さえたかという数です。2本で済んだのか、4本かかったのか。数は誰が数えても同じになるので、家でもそのまま使えます。手つきは人によって違うので、渡しても再現されません。

家へ持ち帰ってもらう4つの数字
数えるもの書き方次に使うところ
押さえた手の数2本・4本減っていれば、その組み立てを続ける
1工程の秒数20秒・30秒10秒ずつ伸ばす目安にする
動いた向き出口・1か所・手のほう・足元同じ向きが3回そろうかを見る
切り上げた工程その日やらなかったもの次回の最初に回す

この4つがそろうと、暴れる犬のトリミングは、その場の力の勝負から外れます。数字は前回と比べられるので、うまくいったかどうかを感覚で言わなくて済みます。現場と家で人が違っても、比べられるものが残ります。

手をつけるところは1つです。次に足先を触るとき、押さえている手が何本あるかを数えてみてください。3本以上あったら、1本を浮かせて、当たっている面を広げます。そこから先は、秒数を決めるだけです。

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よくある質問

押さえないと、爪切りや顔まわりのカットが最後まで終わりません。
終わらせる範囲を、その日のうちに決め直すほうが早く進みます。爪なら4本だけ、顔まわりなら目の上だけ。全部を1日で終わらせる前提を外すと、押さえる必要そのものが減ります。暴れる犬の場合、途中で力が入った日の記憶は次の週へ持ち越されるので、半分で終わった日を3回重ねたほうが、無理に終わらせた1日より先に進みます。残した分は、翌日か翌週の最初に回してください。
猫の場合も、同じように面で支えればよいですか。
支え方の考え方は同じですが、支える場所が変わります。猫は前足の付け根を持たれると体をねじるので、胸の下と後ろ足の付け根に手のひらを置いて、体の長さを面で受けます。秒数はさらに短く、10秒から始めます。猫は動き出す前のサインが首の付け根ではなく、しっぽの付け根に出ることが多いので、見る場所だけ入れ替えてください。
家でやると暴れるのに、サロンでは落ち着いていると言われます。
床と音と人の数が違うためです。サロンは滑らない床で、動ける範囲が区切られていて、触る人が1人に決まっています。家では床が滑り、家族が出入りし、声も複数から聞こえます。トリミングの現場で落ち着いていた子は、条件がそろえば落ち着けるということなので、家ではまず床を変えてみてください。マットを1枚敷いて、触る人をその時間だけ1人にする。それだけで動きが減ることがあります。

本記事は商品の情報提供を目的としており、疾病の診断・治療・予防を目的とするものではありません。掲載している検証データは特定条件下での試験結果であり、すべての環境で同じ結果を保証するものではありません。皮膚や体調に異常が見られる場合は、自己判断せず動物病院にご相談ください。