C09シーン別・暮らし

シニア犬と暮らす人のための防災と避難|5分で終わらせるケア

公開日 2024年8月31日|文=mofuwa編集部

明るい玄関わきの廊下に、落ち着いて立っている淡い色のシニア犬
備えの中身より先に、その子がそこまで来られる道があるかどうかを見ています。写真:Rufina Rusakova/Pexels

9月1日を前にした土曜、防災の袋を詰め直して、玄関の靴箱の上に置きました。水を2本、フードを3日ぶん、折りたたみの食器、予備のリード、たたんだ布。量ったら4.2kgでした。詰め終わってから、居間で寝ていたその子を呼んでみました。居間の入口から玄関の三和土まで7歩の距離を、その子は1分半かけて歩きました。段差の前で3回止まって、そのたびに前足を片方ずつ乗せています。ペットの防災で老犬の家がいちばん見落とすのは、袋の重さではなく、その袋のところまで来られるかどうかのほうでした。この記事は、詰めるものではなく、玄関までの道を数える話です。

玄関まで7歩を、1分半かけて歩きました|老犬と暮らす人がペットの防災で最初にした経験

その日にやったことを順に書きます。押し入れに入れたままだった持ち出し袋を出して、中身を全部床に並べました。水が2本、フードが3日ぶん、折りたたみの食器、予備のリード、たたんだ布、飲んでいる薬の予備。期限の切れたものを外して詰め直すのに、40分かかりました。量ったら4.2kgです。老犬と暮らしていると、防災の準備はこの40分で終わったつもりになります。袋を玄関の靴箱の上に置いて、写真を撮って、家族に場所を伝えました。ここまでは、ペットの防災としてよくある形だと思います。

そのあと、居間で寝ていたその子を呼びました。深い意味はありません。袋の場所を覚えてくれるといいな、くらいの気持ちでした。居間の入口から玄関の三和土までは7歩です。その7歩を、その子は1分半かけて歩きました。途中で3回止まっています。廊下との境の敷居で1回、玄関ホールへ下りる1段で1回、三和土へ下りる上がりかまちで1回。止まるたびに前足を片方ずつ乗せて、体重が乗ったのを確かめてから後ろ足を運びます。声をかけても速くはなりません。

そこで見えたのは、玄関に置いた4.2kgの袋のことではなく、その袋のところまで、この子は1分半かかるという事実のほうでした。老犬の歩く速さは、その日の気分ではあまり変わりません。段差の前で止まっている時間も、だいたい決まっています。ペットの防災の話は詰めるものから始まることが多いのですが、シニア犬と暮らす家では、袋より先に決まっているものがあります。家の中の、出口までの道のほうです。

並べてみると、この6つのうち5つは室内の話です。持ち物ではありません。袋の中身をどれだけ整えても、その袋と老犬が同じ場所にたどりつく道は、勝手には用意されないということが、この日に分かったことでした。しかも困ったことに、私が置いた袋そのものが、抱えたときには取れない位置にありました。備えのつもりで置いたものが、経路の側では邪魔になっていたわけです。

Note袋を軽くする、という話ではありません

4.2kgを3kgに減らしても、7歩にかかる1分半は変わりません。ここで動いているのは荷物の重さではなく、その子が段差の前で止まる時間のほうだからです。中身を削る作業は、やり始めると何時間でも使えてしまいます。老犬と暮らす家では、その時間の一部を、家の中を測るほうへ回すと数字が動きます。詰めるものの検討をやめる必要はありません。順番の話です。

歩く速さは決まっている、というところから始める|老犬のペット防災が袋の側で止まる背景

なぜ、ペットの防災の準備は袋の話で終わりやすいのでしょうか。理由は単純で、持ち物は一覧の形にできるからです。何を何日ぶん、という書き方ができて、買えば終わり、買ったかどうかも見て分かります。ところが家の中の経路は、一覧にできません。段差の高さも、廊下の幅も、その家ごとに違います。自分で測らないかぎり、どこにも書いていない数字です。だから後回しになります。

もう一つ、老犬の側にも理由があります。その子の歩く速さは、こちらが決められません。若い犬なら、呼べば来ます。急がせれば速くなります。老犬は、歩幅が狭くなり、段差の前で「乗せてから体を送る」動きに変わり、上るより下りるほうに時間がかかるようになります。これは怠けているのでも、聞いていないのでもありません。速さのほうが、先に決まっているのです。声をかける回数を増やしても、7歩は7歩のままです。

ここで多くの家が「抱えればいい」と考えます。私もそう思っていました。ただ、抱えるという手には、いくつも条件がついています。抱えられる体重かどうか。抱え上げるまでに何秒かかるか。抱えたあと、両手はふさがっていないか。抱えたまま扉を開けられるか。試してみると、抱え上げるのに20秒かかり、その姿勢では玄関の開き戸が押せず、袋も取れませんでした。抱えるという手は使えますが、家じゅうのどこででも使えるわけではありません。

家の中で測れる6つの数字と、そこから分かること
測るものうちの数字何が分かるか
居場所から玄関までの歩数7歩距離そのものより、止まる場所がいくつあるかが見えます
経路にある段差の数3か所減らせる段差と、減らせない段差に分かれます
段差ごとに止まっている秒数4秒/11秒/抱える延びていく段差が、次に手を入れる場所になります
経路がいちばん狭くなる幅60cm抱えたまま通れるかどうかが、ここで決まります
抱え上げるまでにかかる時間20秒しゃがむ場所が決まっていないと、その倍になります
経路にある扉の数2枚ふだんから開けたままにできる扉が分かります

この6つは、老犬と暮らしている家なら1回で測れます。メジャーと、時計と、紙が1枚あれば足ります。数字にしてみると、持ち物の側では動かせなかったものが、室内の側では動かせると分かります。段差の高さは変えられませんが、段差の数は変えられます。廊下の幅は変えられませんが、そこに置いてあるものは動かせます。ペットの防災でシニア犬の家に残っている余地は、だいたいこちら側にあります。

念のため書いておくと、これは家の外の話ではありません。避難の場所や道すじについては、家ごとに事情が違いますし、住んでいる地域で案内されている内容に従うほかありません。この記事で扱うのは、玄関を出るまでの室内だけです。そこだけは、その家の人しか測れません。老犬の速さを知っているのも、その家の人だけです。

なぜ、玄関までの経路を1本に決めるのか|ペットの防災を老犬の速さに合わせる理由

測ったあとにやることは1つです。居場所から玄関までの道を、家の中で1本に決めます。理由は、家族がそれぞれ違う道を使っているからです。うちの場合、私は台所を抜けて廊下へ出ますが、家族は居間の引き戸から出ます。老犬のほうは、ふだん通る道が決まっていて、そこから外れると入口で止まります。急いでいるときに、いつもと違う道へ誘導すると、いちばん時間がかかる形になります。

1本に決めると、手を入れる場所も1本ぶんで済みます。家じゅうの段差を直す必要はありません。その1本の上にある段差だけが、老犬にとっての段差です。ペットの防災を室内でやる、というのは、家全体を作り替えることではなく、この1本を整えることだと考えると、毎日の側に置けます。以下は、うちでやった順番です。

  1. その子が一日でいちばん長くいる場所を決める

    出発点はここです。寝床の位置ではなく、昼間に実際に寝ている場所で決めてください。うちは居間のソファの足元でした。夜は寝室にいるので、夜のぶんはもう1本あります。まず昼の1本から始めます。老犬は、日中に長くいる場所がほぼ固定されているので、この出発点は動きません。

  2. 出発点から玄関まで、歩数と段差と幅を1回だけ測る

    メジャーと時計で、さきほどの6つを埋めます。時間は10分ほどです。秒数だけは、その日の1回では決めないでください。朝と帰宅後、3日ぶん取ると、その子の平常の幅が見えます。うちは敷居が3〜5秒、1段が9〜13秒でした。この幅が、あとで比べる相手になります。

  3. 減らせる段差を、1つだけ選んで減らす

    全部やろうとすると終わりません。止まっている秒数がいちばん長い段差を1つ選びます。うちは廊下から玄関ホールへ下りる12cmでした。ホームセンターで買った1枚板のスロープを置いて、上に滑りにくい素材を貼っただけです。玄関マットを外すだけで済む家もありますし、ラグの端が浮いているならそこを留めるだけで変わります。

  4. 通り道に物を置かない。防災の袋も、通路の外に出す

    掃除機、たたんだ段ボール、季節家電。この3つは、幅を狭くしている常連です。そして袋そのものも、抱えたまま取れる位置に置き直します。うちは靴箱の上から、開き戸の蝶番側の壁ぎわに移しました。抱えた姿勢でも、腰をひねらずに引っかけられます。置き場所を変えただけで、20秒の抱え上げが無駄になりません。

  5. 抱える場所を1か所に決めて、家族に同じ場所を伝える

    うちは上がりかまちの手前だけです。ここ以外では抱えません。しゃがむ位置まで決めておくと、抱え上げるまでの秒数が半分になります。家族が別の場所で抱えようとすると、その子は先に身構えて固くなります。老犬にとっては、抱えられること自体が体力を使う動きなので、回数を1回に絞るほうが楽です。

夜のぶんについても、一度だけ確かめておくと安心です。廊下の明かりを消して、同じ1本を歩いてもらう。暗いと、段差の前で止まる時間が少し延びます。うちは11秒が17秒になりました。だからといって毎晩やる必要はありません。模様替えをしたときと、家具を動かしたときに1回ずつで足ります。習慣にするのは測ることではなく、通り道に物を置かないという1つだけにしておくほうが続きます。

Point減らす段差は、1回に1つだけ

老犬は、足の下の条件が一度に何か所も変わると、そのたびに歩き方を組み直します。スロープを2枚同時に入れると、どちらが合っていたのか分からなくなります。1つ入れて、2週間そのままにして、秒数を測る。変わっていれば残し、変わらなければ外す。ペットの防災として室内に手を入れるときも、家の中の変化は1つずつのほうが、その子にとっての負担が小さくなります。急ぐ理由がないところなので、ゆっくりで構いません。

段差を1つ減らした翌月に変わった数字|老犬と暮らす家のペット防災の考え方

スロープを1枚入れて、廊下の3つの荷物をどけて、袋の位置を変えました。作業としては1時間もかかっていません。1か月たってから、同じ7歩をもう一度測りました。1分半が55秒になりました。速く歩けるようになったわけではありません。止まる場所が3か所から2か所に減っただけです。老犬の速さは、この1か月でも変わっていません。変わったのは、道のほうです。

室内に手を入れる前と、1か月あとの数字
前1か月あと
居場所から玄関までの所要時間1分30秒55秒
止まった回数3回2回
経路がいちばん狭くなる幅60cm88cm
抱え上げるまでにかかった時間20秒9秒
抱えたまま袋を取れるか取れない取れる
家族3人が使っている経路3通り1本

毎日やっていることは1つだけです。帰宅後、廊下に荷物を置かない。買い物袋も、宅配の箱も、そのまま床に置くと翌朝までそこにあります。玄関を上がったらまず廊下の先まで持っていく、という順番に変えました。数秒の話ですが、この習慣がないと、1か月で経路はもとの幅に戻ります。室内の備えというのは、作って終わるものではなく、戻ろうとするものを毎日ちょっとだけ押し返す形になります。

測るのは月に1回で足ります。日を決めて、7歩の秒数と、止まった回数だけ紙に書く。1分もかかりません。数字が並んでいると、その子の中で比べられるようになります。ほかの家の老犬と比べても意味がないので、比べる相手はいつもその子自身です。ペットの防災でいちばん役に立ったのは、袋の中身の一覧ではなく、この数字の並びでした。

玄関に置くものも1つ増やしました。mofuwaのグルーミングスプレーを1本、袋の中ではなく玄関の棚に立てています。散歩から戻った四つ足の裏と口のまわりを、玄関でそのまま拭いて終わりにできるからです。においを消すために置いているのではなく、玄関まで来られた日に、そこで終わらせるためです。老犬は、部屋の奥まで戻ってから拭くとなると、もう一度7歩を歩くことになります。犬は体から脂を出すので、足の裏と口のまわりは毎日汚れます。グルーミングスプレーは吹きかけてそのまま拭けて、すすぎが要りません。だから、毎日の帰宅のついでで済みます。口のまわりに使うものでもありますが、清涼飲料水の規格基準をクリアしているので、そのあと顔をなめても量を気にしなくてすみます。

最後に、防災の準備として扱わないほうがよい変化を書いておきます。同じ段差で止まる秒数が、先月よりはっきり延びた。片側の足だけ乗せ方が変わった。下りるときだけ止まるようになった。段差のない廊下でつまずくようになった。呼んでも立ち上がるまでに時間がかかる。こうした変わり方は、経路を整えて解決する種類のものではありません。測っておいた秒数の紙を持って、動物病院にご相談ください。月に1回の数字があると、いつから変わったかをその場で伝えられます。経路に手を入れるのは、そのあとで構いません。

シニア犬と暮らす家のペットの防災は、袋を大きくする方向には伸びません。持てる量は決まっていて、その子の速さも決まっているからです。動かせるのは、そのあいだにある家のほうでした。段差を1つ減らし、通り道の物をどけて、抱える場所を決めて、家族の使う道を1本にそろえる。備えというと持ち物の話に聞こえますが、老犬のいる家では、玄関までの道のほうが先に動かせます。詰め直しはまた来年でも構いません。7歩を測るのは、今日でもできます。

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本記事は日常のお手入れに関する情報提供を目的としており、疾病の診断・治療・予防を目的とするものではありません。皮膚や体調に異常が見られる場合は、自己判断せず動物病院にご相談ください。